第34話 生き返りたくないらしい
守る。
――何から?
帰る。
――どこに?
「どういう意味ですか?」
カイリの問いかけに「聞きてーなら答えてやんよ」とイスに座り直すシイナ。
無謀な捜索活動は今すぐには始まらないようだ。レモンティーはホッとした。できることなら阻止したい。明らかにみんな手伝わされる流れだった。
「オマエを狙ってくる敵性プログラムってやつをボコせば、オレは生き返れんの」
「??????????」
「そんなに難しいこと言ってねーけど?」
カイリの頭の中で疑問符が踊っている。
ルナは「なんだそれ。君は生き返りたいっての?」と鼻で笑った。
「オマエみたいなキモいボッチとはちげーんだよ」
言葉のトゲが鋭すぎる。ボッチだったのは間違いないのでルナは呻いた。と同時に、望んで転生したルナには理解できない。生き返りたい理由がわからない。生き返ったところで何があるというのか。現実の世界でゲームの世界よりも面白いことはあっただろうか。ゲームの世界が最高だと思う。正体はバレてしまったけれど、なんとか許してもらえたっぽい。これならいくらでも挽回のチャンスはあるだろう。
シイナとは分かり合えない。
「MARSっていうプロeスポーツチーム、聞いたことねーの?」
「わたし、あんまりゲームをやったことなくて……」
カイリは申し訳なさそうに頭を掻いた。代わりにレモンティーが検索エンジンで“MARS プロeスポーツチーム”と検索する。出てきた。主にFPSゲームの大会に出場しているチームらしく、トップページには『モバイル部門、新設』と書かれている。そのリンクをクリックすると、所属している選手の名前が載せられていた。写真が入りそうなスペースは空いているが、まだ用意されていないようだ。
「417の名前があるニャ」
「プロの人なんですね!」
薄い反応にシイナは「これからメジャーになるタイトルだからな。ぜってー覚えとけよ」と釘を刺してきた。
「オレは明日の大会に出なきゃなんねーんだよ」
シイナの宣伝に対して、ルナがここぞとばかりに「明日の大会に出なきゃいけないプロeスポーツ選手な君がなんで転生してきてるわけ?」とやり返す。
一般プレイヤーとしてログインしているならまだわかるが、転生者としてここにいるということがどういうことなのか。
「横断歩道で車にやられたんだよ。わりーか?」
「交通事故かあ」
「ありがちだな、みたいな顔してんじゃねーよ。書いてあんぞ。オマエはどうなんだよオマエは」
「ボクは飛び降りた」
「えぐ」
カイリは「つまり、シイナくんは明日までに生き返らせてもらうために敵なんとかを倒さないといけないんですね?」とまとめる。
声に出してみると頭の中がスッキリ整頓されたような気がした。
「なんかさ、嫌われるようなことしてねーの?」
「わたしがですか?」
カイリは転生してからの出来事を思い返してみる。
いろいろなことがあったけれど、誰かの邪魔をした覚えはない。
「命を狙われているらしいぞ」
転生したのに命を狙われるとはどういうことだろう。
カイリは「えぇ……」と困った顔をする。
「カイリの生前に関係があるって、その“ゲームマスター”という人は言ってなかったニャ?」
レモンティーがシイナに訊ねる。
シイナは「オレ、倒してこいって言われたわりにソイツの特徴聞かされてねーんだよな」と答えた。勇者はラスボスを倒さなければならないが、最初からそのラスボスの姿を知っているわけではない。その悪行の数々を知っていても、その容姿までは知らない。もしかしたら隣にいる人間が倒すべき相手かもしれないのである。
「レモさん」
ルナがその視線でレモンティーをたしなめた。カイリから生前の話を打ち明けられてから、ルナとレモンティーは『六道海陸が自らの両親を火事と見せかけて殺害したのではないか』という疑惑を浮上させていた。しかし、普段のカイリの行動を見ているとそんな大それたことをするような人間には見えないのである。普通の女の子だ。疑っている我々が恥ずかしくなってくるぐらいに、普通の女の子。
「どんなやつかわかんねーから、オレは
「確かに! わたしも強くなったほうがいいですね!」
「だろ? だから専用装備が必要なんだよ」
盛り上がっている2人に対してレモンティーは「ウチが現実の世界で、手がかりを探してくるニャ」と提案した。転生者は文字通りゲームに転生してしまっているので、現実の世界では活動できない。ユートピアのギルドメンバーの中では唯一の一般プレイヤーのレモンティーにしかできないことである。
「プラトン砂漠へはこれから《テレポート》で飛ばすから、3人で頑張って。ウチは現実の世界で探索するニャ」
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