第33話 専用装備を探したいらしい


 拗ねっぱなしのギルドマスター、カイリの代わりに副ギルドマスターのレモンティーがギルドメニューから承認をクリックする。

 これにより正式にシイナがユートピアに加入した。


 褐色の肌にエメラルドグリーンの瞳、プラチナブロンドの髪を靡かせる美女(転生前は男子高校生)の“王者”ルナ。

 不健康の瀬戸際を攻めた色白さと深海の如き青い長髪の“賢者”カイリ。

 サイドを刈り上げにしてトップがクリムゾンレッドなヤンチャなヘアースタイルの“勇者”シイナ。

 ――といった、転生者3人とリフェス族の一般プレイヤー・シャムネコのアバターを使用しているレモンティーが1匹という構成。


「そんで、このゲームのギルドって何すんの?」


 シイナは自分から入りたいとは言ったがTGXのギルドが一体どのようなものなのかはわかっていない。ギルドに入りたかったのはあくまでカイリに近づくためである。それ以外の理由はない。TGXというゲームに関してのプロであるルナが「本来はプレイヤー同士の交流の場ってのと日曜のギルド対抗戦に参加するためだけど、この4人でギルド対抗戦に出るのは無謀だ」と答えた。


「ギルド対抗戦?」


 カイリは精鋭都市テレスのナンバーワンギルドであった†お布団ぽかぽか防衛軍†に在籍はしていたがその期間はたったの1日弱。TGXの主力コンテンツのギルド対抗戦の楽しさを知る前に脱退し、自らのギルドを作って独立してしまった。TGXのプレイヤーの大多数はギルド対抗戦のために渋すぎるアイテムドロップ率と戦っている。ギルド対抗戦で戦果を上げて、有名になり、チヤホヤされたいのである。

 ちなみに、天下無双と謳われたルナと有能なサポート役のレモンティーが突然脱退してしまった†お布団ぽかぽか防衛軍†はどったんばったんの大騒ぎとなっていた。ルナはメッセージをブロックしており古巣のいざこざに関しては触れないようにしているが、レモンティーにはルナが目を通さないぶんを含めての恨みつらみのメッセージが何百通と届いている。胸が痛い。

 ルナからギルドマスターを移譲された現在のギルドマスターのキナコは内乱を鎮めるために今週のギルド対抗戦の出場を辞退した。転生者の知ったことではないが、公式サイトの1周年記念イベントの『優勝ギルド予想大会』は大本命を失って大荒れとなっている。


「そもそもカイリの性格的にPvPなギルド対抗戦は無理ニャ」

「ピーブイピー?」

「プレイヤー対プレイヤー。モンスターじゃなくてプレイヤー同士の戦いニャ」


 レモンティーの説明に「なんでプレイヤー同士で戦わないといけないんですか!」と根本の部分へ怒るカイリ。モンスターとの戦いを繰り返して強くなったプレイヤーは、その力を他のプレイヤー相手に試したくなってしまう。MMORPGのRPGらしからぬポイントである。ただのRPGならプレイヤー同士で戦う理由はない。自分が選択したジョブとスキルを駆使してメインクエストを進めていき、運営が用意した最後のボスモンスターを倒してハッピーエンドだ。そこにギルドとPvPの要素が加わって、MMOはやり込みの幅が広がる。広がりすぎて、本来のRPGの要素に誰も手をつけなくなってしまったのがTGXの現状ではあるが。


「なんで無謀なんだよ。オレたちにはがあんだろ」


 シイナは自らの左目を指差してアピールした。転生者にはそれぞれに専用装備が用意されており、その装備に応じて能力が発動できる。ルナなら現在のジョブ以外のジョブのスキルを無制限に使用できる【統率】が、シイナなら持っているアイテムの効果や自身の身体能力を増幅させる【心眼】が。どちらもチートを疑われてもおかしくない。


「目はわたしにもありますよ!」

「ちげーよ。専用装備ってやつ」


 ルナが左手薬指のトゲトゲな装飾の指輪を見せながら「こういうの」と補足した。カイリはスマートフォンを出現させると、インベントリから《麻の服》と《スパッツ》を取り出してそのポケットを漁ってみる。何も入っていない。


「ないんですけど……」

「マジ?」

「ゲームマスターからもらったの、この服とスマホだけです」


 シイナは「あのチビ、オマエに対してなんもしてなさすぎじゃね?」と首を傾げた。


「もしかしたら、プラトン砂漠のどこかかあそこのオアシスにあるかも」


 カイリはプラトン砂漠のオアシスに落下してきた。それなら、プラトン砂漠の砂に混じっているかオアシスの底に沈んでいる可能性はある。ルナは『ゲームマスターは実は渡しているのに空中でどこかへ飛んでいってしまった』という予想を立てた。


「あのフィールドを4人でくまなく探すのはそれこそ無謀ニャ」


 この空間ではルナに次ぐTGXのプロであるレモンティーが冷静にとがめる。カイリも「ルナさんが指輪で、シイナくんが左目となると、わたしのその“専用装備”っていうのがどんな形状なのかがわかりませんもんね」と肩を落とした。


「オレみたいに身体の一部分の可能性はねーの?」

「カイリちゃんのステータスはこのレベル帯のウィザードなら平均値だから、それはないと思う」


 ルナに言い返されて「なら、探すしかねーな」と言って上に伸びをするシイナ。


「正気かニャ?」


 プラトン砂漠は現在実装されているフィールドの中では一番広い。オアシス周辺以外にはモンスターも出現する。オアシスの中だった場合は《水中探索》のスキルがなければ拾い上げることができない。さらにはカイリの言うように『どんな形状なのか』もわからないとなると、途方もない時間がかかってしまうだろう。


「オレはコイツを守んなきゃ帰れねーんでね。コイツ自身にも強くなっといてもらわねーと」





【あなたの思い出の品はなんですか?】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る