第32話 本当のことを話すらしい
和風都市ショウザンのユートピアの本拠地。
正座させられているルナ。
足のしびれから逃れようとして「わたしもですか?」と反抗したらレモンティーにキッと睨みつけられて正座することになってしまったカイリ。
その2人に向かい合うような位置で座椅子に腰掛けるレモンティー。
「これ、食っていいか?」
まだギルドへの正式加入の手続きをしていないシイナがダイニングに置かれたテーブルの上のパンを指差した。一般プレイヤーの場合は画面のギルドメニューから入りたいギルドへ申請し、ギルドマスターもしくは副ギルドマスターの承認が下りれば正式加入となる。転生者の場合はスマートフォンから申請しなければならない。
が、今はユートピア4人目のギルドメンバーを歓迎する雰囲気とは言い難い。
「最初から説明してほしいニャ」
シイナは“腹が減っている”という単純な理由もあれど、場を和ませようとしてパンを所望したのだが無視されてしまった。
とはいえ空腹には勝てないので、ロールパンをひとつ取ってかぶりつく。ゲームの世界でもパンはパンだった。当たり前のようにパンの味がする。
「わたしとルナさんと、シイナくん? は転生者といって、ゲームマスターに選ばれてこのゲームの世界に来ました。現実には死んでます」
「死?」
カイリのセリフを聞いて、シイナは口に入っていたロールパンのかけらを飲み込んでから「オレはよくわかんねーチビに頼まれた」と割り込んできた。
「そのチビ? ってしましまの服を着てませんでした?」
「着てた」
「じゃあ、ゲームマスターですよ!」
訂正を入れるカイリに、ロールパンをもう一口かじりながら「そんなえらそーには見えんかった」と天井を見る。
死人をゲームの中に送り込むような不思議な力があるのだからその“ゲームマスター”だとかいうステイタスがあってもおかしくはないか。
「ボクは、その、βテストの成績が優秀だったからって、ゲームマスターに呼び出されて、転生しました」
ルナは
「わたし! 抱きつかれました!」
ベッドの上で後ろから抱きしめられていたことを思い出してしまったカイリは顔を真っ赤にして「しつこく《ビキニアーマー》を着せようとするし、デスペナ受けて病院で裸見られたし!」と次から次へと暴露していく。
「異世界でハーレム作って、どーせバレねーからってエッチなことしてたってコトか。変態かよ。ヤバすぎ」
同性のシイナからの的確なツッコミに対してルナは立ち上がり「ゲームの中ぐらい好き勝手やっていいじゃねぇかよ!」と目を見開いて反論した。
女性陣からの冷たい視線が突き刺さってまた正座に戻る。
「ハイ……すみません……」
「ま。いいんじゃねーの?」
シイナは「あのゲームマスターのチビ、オレには性別選ばせてくれんかったなー」と自身のやりとりを振り返りつつ、ルナの肩に手を置いた。出会って小一時間しか経っていないシイナは何の損害も被っていない。問題はずっと騙されていた女性陣である。ルナの本性はたびたび露見していたが、カイリもレモンティーも気付けていない。うまく隠し通せていた。
「お前がボクの本名を言わなければバレなかったのに」
悔しそうにするルナに「しょーがねーじゃん。転生者は京壱と海陸だ、としか聞いてなかったし」と言い訳するシイナ。事実、ゲームマスターはIGNをシイナに教えていない。シイナがルナを京壱と呼んだのは消去法であり、避けられない事故であった。
「マァ、これからはお姉様じゃなくてルナって呼ぶことでおあいこにするニャ」
寛大な処置に「レモさん……!」と拝むルナ。
1年ほど嘘をつかれていたレモンティーとして『嘘をつかれていた』という事実は許せない。面と向かって一対一できちんと話し合いたかった。しかし、自らの口から隠し事を告白したその勇気は認めてあげたい。複雑な気持ちには呼び名を変えて、一旦折り合いをつけることとする。
「レモン先輩は許せてもわたしは許せないです! どう責任を取るんですか! 百歩譲ってデスペナはわたしのせいですけども!」
カイリはというと、実際の顔も知らないような異性に胸を揉まれたりセクハラを受けていたりと散々な目に遭っている。尊敬の念はあったが恋慕ではない。その尊敬の念とやらも薄れつつある。
「いや……あの、……つい出来心で」
「男としてしゃーないよな」
「うぅ……」
「女同士ならおっぱい揉んでもなんともねーもんな」
シイナが笑いながらフォローしている。
フォローできていない。
「なんともなくないです。わたしは根に持ちますからね!」
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