第31話 バレてしまったらしい
転生者である。
カイリはルナを押し退けて堂々と躍り出た。
大きく息を吸って、吐いて、深呼吸してから「こんにちは!」と赤髪の男の子に声を張り上げて挨拶する。
「!?」
目を見開き、照準をヘッドラインに置いてくる男の子。カントの森に到着してからたびたび日本語で話すイヌやネコの姿は目撃していたが、人間の姿を発見したのはこれが初めてである。モバイルFPSゲームによってその腕前と引き換えに下がり続けていた視力はゲームマスターから贈られた専用装備の《左目》の効果で飛躍的に向上していた。
「わたしはカイリといいます! 敵じゃないです!」
敵意がないことをアピールする。
すると男の子は「オマエが
「オレは
「そうなんですか!」
「手がかりはねーしクモがウヨウヨ出てくるしで動けんかったけど、オマエのほうから来てくれるなんてな」
カイリが悪い意味で噂になっているシイナに捜されていたらしい。ルナはボロボロの黒いシャツに泥だらけの迷彩柄のパンツと派手な髪型なシイナの、いわゆるヤンキーのような容姿に苦手意識がある。我らのギルドマスターであるカイリがたぶらかされる前になんとかしたいが「……どうしたものかしら」と尻込みしていた。
「スニーカ族って聞いてたけど、リフェス族だったニャ?」
そんな葛藤はお構いなしに出ていく一般プレイヤーのレモンティー。カイリがロシアンブルーとして表示されているように、レモンティーの画面ではシイナは赤毛のメインクーンとなっている。シイナは喧嘩腰になって「なんだぁ、このネコちゃんは?」とレモンティーを見下ろした。
「レモン先輩はわたしのギルドのギルドメンバーです!」
カイリは割り込んで「わたしと、こちらのレモン先輩と、そこにいるルナさんとでユートピアっていうギルドをやっています!」とシイナに説明する。ギルドをやっている、と言ったはいいが具体的にギルドが何をするところなのかはよくわかっていない。わかっていないけれど自分がギルドマスターだから自分が紹介したほうがいいだろう。そう思って、率先して前に出る。シイナはそこにいる、とカイリが指差した方角を見て、ルナを発見した。
「オマエがもう1人の転生者だっていう
突然の本名呼びに飛び上がったルナ。口から心臓が飛び出そうになる。ルナの本名は
「ルナさん、説明してなかったんですか!?」
レモンティーの反応を見てのカイリの言葉である。カイリは『自分よりも付き合いが長く誰よりもルナを慕っているレモンティーへは、ルナから話したほうがいいだろう』と思って話していなかった。判断としては間違っていない。だが、ルナはルナで『レモンティーは自分を信じてくれているのだから、これからも騙し通せるだろう』と考えていた。双方ともにそれぞれの見解があって、結局どちらも「自分が転生者である」とレモンティーへ告白していなかったのである。
「それにお姉様、京壱ってどなたですニャ?」
レモンティーはルナに詰め寄った。同時に2つも隠し事がバレて、1人と1匹の女性に責められたルナは「あー……」と言葉を失って目を泳がせている。
生前の一色京壱は男である。六道海陸と同い年。βテスト実施中のTransport Gaming Xanaduにどハマりしていたところをゲームマスターに目をつけられ、声をかけられる。現実の人付き合いが苦手で学校生活を嫌っていた京壱は、死ぬことで大好きなMMORPGの世界で人生をやり直せるのなら死を選ぶことに躊躇いがなかった。Character Creationにてどうせやり直せるのなら日本人離れした美女になりたいと願い、現在のルナの姿となっている。
「なんかオレ、やべーこと言ったか?」
シイナは目の前が険悪なムードになっているのを感じ取った上で、悪びれることなく言ってくれた。海陸と合流できたので、シイナは『敵が海陸を狙ってきているのなら海陸のそばで敵のほうから近づいてくるのを待って撃ち負かす』という作戦をシミュレートしている。敵がどこにいるかもわからない。どんな姿をしているのかも知らない。だが、敵の目的は把握している。海陸と共に行動するために「オレもそのユートピアってギルド、入らせてほしいんだけど」と海陸に持ちかけた。
「わたしはいいんですけど……」
カイリはレモンティーとルナに目配せしながら答える。
レモンティーは「ギルドマスターがいいって言うならいいんじゃないかニャ」と応じてから「これから本拠地に戻って、その転生者っていうのを説明してほしいニャ」と付け加えた。
【あなたは生まれ変わったら男になりたいですか? 女になりたいですか?】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます