支配

ツヨシ

第1話

夏休みに行く父方の家の近くに、古い神社があった。

朽ちて廃墟に近いのだが、建物が壊れているということはなかった。

参拝する人もなく、周りの住人も放置していた。

そんな中、僕の高校生になる姉が言った。

「あの神社、汚くてかわいそうだね。きれいにしてあげよう」

弟の僕が言うのもなんだが、姉は信心深いわけでも気が優しいわけでもない。

ただ気まぐれなだけだ。

周りの大人に何も言わずに、姉は神社の掃除を始めた。

僕は最初見ていたが、やがて飽きてしまって一人で帰った。

その日姉はなかなか帰ってこず、みんなで探そうと言い始めた時、泥だらけの姿で帰ってきた。

「どうしたの」

の母の問いに姉は「遊んでたの」とだけ言った。

 

次の日、姉は朝早くから出かけていった。

しばらくして神社に行ってみると、姉がそれこそ必死の形相で本殿そばの雑草を抜いていた。

「姉ちゃん」

声をかけたが返事がない。

近づいて肩をゆすって見ても、反応がない。

ただひたすら草を抜いている。

まるでなにかに取り付かれたようだ。

僕は怖くなって小走りで帰った。

その日も姉は遅くに帰ってきて「遊んでたの」と一言だけ言った。

僕も両親も気づいた。

姉の様子がおかしい。

ご飯を食べている時もそれ以外も心ここにあらずと言った感じで、ぼうとしている。

声をかけてもまともに答えない。

父も母も娘を心配げに見ていた。


次の日も姉は早くに出かけた。

母が僕に聞いた。

「あんた、なんか知らないの」

僕は姉が神社の掃除をしていると言った。

それを聞いた母が父に、父が祖父に言った。

「こりゃいかん」

慌ててそういう祖父を筆頭にみなで神社に行くと、姉は神社の外壁を、それこそ鬼の形相で布でふいていた。

祖父の号令の下、みんなで暴れる姉を家に連れて帰った。

家に帰ると姉は物置のように静かになった。

すると祖父がどこかに連絡を入れた。


次の朝、神社にむかおうとして激しく暴れる姉を、祖父と父と母でおさえこんだ。

そのまま数時間が経った頃、姉が急に大人しくなった。

そしてきょろきょろと周りを見わたし「えっ、私どうしたの。何があったの」と言った。

その時祖父の携帯が鳴った。

相手と話し終えた祖父が言うには、知り合いの土建屋に頼んで、神社を壊してもらったそうだ。


       終

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支配 ツヨシ @kunkunkonkon

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