田中君と山川君(弟)~風邪っぴき~

「翔悟、兄貴から聞いたんだけど、健悟兄さんが風邪ひいて、声が出なくなったんだって?」

「おはよー、きょん。うん、そうみたいだねー」

「そうみたいだねー、って……。うちの馬鹿兄貴が便乗して、声が出ないふりしてふざけてたんだけどさ。まあ、なんとかは風邪ひかないって言うし、そんな嘘なんてすぐにバレるよなぁ」

「腹黒で意地悪で冷血で残忍でも風邪はひくのにね」

「……何、翔悟、なんか怒ってる?」

「別にぃ、ケン兄に対して怒ってなんかいないもーん」

「分かりやすいなぁ。なんだよ、健悟兄さんと喧嘩でもしたの?」

「してないもーん。落ち物パズルゲームで一時間死闘を繰り広げた末に、いつの間にか組み上がってた八連鎖でトドメを刺されたくらいで、恨んだりなんかしないもーん」

「めちゃくちゃ恨んでるじゃないか。というか、落ちゲーの対戦を一時間続けられるって凄いな、二人とも」

「あー、悔しぃ~! 俺だって八連鎖組めてたもん、あそこで青と赤の組み合わせがくれば相殺できたのにぃ!」

「あはは……まあ、健悟兄さん相手にそれだけ善戦しただけでも立派なもんだし、今回は運が悪かったと思ってさ」

「まさにそれだよ、きょん! 俺を叩きのめしたあと、ケン兄が余裕の表情で言うことには、『運も実力のうちだろ』だってさ! ああもう、腹立つぅ! 可愛い弟に対する慈悲の心ってものが無いんだよね、ケン兄には!」

「そんなのうちの兄貴にだって無いし、あったら逆にイラッとするよ。あと、自分で『可愛い』って言うのはやめておきなさい」

「ケン兄の言い様があまりに腹立たしかったから、『いっそ声が出なくなればいいのに』って思ったら、なんかそのとおりになったんだよねー」

「ちょ、翔悟……呪うなよ!」

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