応急救護を習得しよう!~その5・気道確保と人工呼吸~
「落ち着いたか、田中」
「ああ、すまねぇ山川、もう大丈夫だ。俺としたことが、目の前の命を救おうと躍起になるあまり、大事なことが見えなくなっていたみたいだな……」
「なんか格好いいこと言ってるが、単に大混乱してただけだからな、お前」
「混乱してないもん! ちょっと使命感に燃えちゃっただけだもん!」
「はいはい、分かった、分かった。それなら早いところ、その命を救ってくれよ。負傷者が待ちぼうけだぞ」
「分かった、さっきの続きからな! ――ここにいるのは俺だけだ。俺がやるしかない。だが、本当に俺にできるのか? この、今にも消え入りそうな小さな生命を、この手で救うことなんて……!」
「熱血系医療ドラマみたいな三文芝居はスキップして、とっとと気道を確保しろ」
「ええと、ええと、どうするんだっけ」
「頭側の手を額に当て、もう一方の手の人差し指と中指を顎の先に添えて――そう、そのまま顎を押し上げる。その状態で口元に頬を近づけて、呼吸の有無を確認。同時に胸の動きも見るようにな」
「た、たたた、大変だ山川! こいつ息してねぇよ、胸も動いてねぇ!」
「人形だからな。この段階に来て、まさかそんな反応が飛び出すとは思いも寄らなかった」
「息が無いから人工呼吸だな? なんだっけ、さっき配って貰った布みたいなの、被せるんだっけ」
「ああ、感染防止用のマスクだな。持っているなら使うべき――って、おい、顔全体にかけるなよ、縁起が悪いだろ。そう、準備ができたら気道を確保したまま、額側の手で患者の鼻をつまむ。口は大きく開いて、患者の口を覆うように」
「もが!」
「返事は要らん。ゆっくり時間をかけて大きく二回、息を吹き込む」
「山川ぁ」
「なんだよ」
「映画とか漫画でたまに見かける、『ドキッ☆ファーストキッスが人工呼吸!?』みたいなシチュエーションってさ。実際やってみると、この絵ヅラじゃ、ロマンチックも何も無いな」
「そうだよ、ロマンの欠片もないんだから、人命救助にだけ集中すればいいんだよ」
「うん、もう変に期待とか抱かないことにする」
「それを学べただけでも価値があったな、この講習」
「『捻挫した彼女を姫だっこ☆』くらいは期待していい?」
「それくらいなら罪は無いかもな」
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