ホワイトデーにも期待を寄せよう!

「田中、何のつもりか知らないが、蟹みたいにカサカサ動き回って俺の進路を執拗に阻む迷惑行為は即刻やめろ。目障りにも程がある」

「げっへっへ、来たな山川ぁ。ここを通して欲しけりゃ、その紙袋いっぱいに詰まったホワイトデー用の菓子、一切合切を俺に寄越すことだなぁ」

「山賊か。笑い方が下衆いぞ」

「うるせぇ、とにかく選べ! 素直にお菓子を渡すか、それとも俺にこのまま道を塞がれ続けて授業に遅れるか!」

「分かった、このルートは諦めて、別の階から回り込むことにする。面倒くさいが、今のお前と関わり合うより数段ましだ」

「は、反則、それは反則だぞ山川ぁ! どうせ今年も、腐るほど貰ったバレンタインチョコのお返しに、腐るほど手作り菓子を用意してきたんだろ? 全部と言わず一個、一個だけでいいから、俺にも菓子を恵んでくれよ! 山川の菓子美味いんだよぉぉぉ!」

「なんでバレンタインに散々絡まれた相手にお返しをしてやらないといけないんだよ。仕返しならともかく。そもそもお前、ちゃっかり俺が貰ったチョコのお相伴に預かってただろ。むしろこの菓子の材料費、お前もいくらか負担しろよ」

「うわ、山川しみったれ。ケチな男はモテねぇぞ……いや、モテるからこその、その巨大な紙袋か……呪われればいいのに……テスト受けようとするとシャーペンが全部チョコペンに入れ替わる呪いにかかればいいのに……」

「地味に実害が大きい呪いをかけるな」

「心の清らかさ故に呪いなんてかけられないこの俺にできることと言えば、今日一日、山川の後ろに背後霊のごとくぴったり寄り添い続けて、お前が女の子たちにお返しを渡すたび、血涙を流しながら歯軋りの音を響かせ続けることくらいだ……」

「菓子ならやるから、もう俺に構うな」

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