第59話

空中で光と闇は対峙していた。


「ヤミヨ ヒサシブリネ」


「オマエモ ソクサイデ ナニヨリダ」


「モトノ アナタニ カエリナサイ」


「イヤ。ワシハ オマエト ヒトツニナリ マッタキ モノト ナル。」


「サセナイ」


「ドウカナ」


はははははははは・・・嫌な笑い声が宙に満ちる。空が真っ黒に染まってくる。


稲光が辺りを照らす。風が吹く。とどろくような雷の音・・・ごうごうと凄い風が吹き荒れる。立っていられないほどの風・・・いろいろな物が空中に舞い上がる・・・




・・・危ない。倫子は無意識に手を振り下ろす。それとともに舞い上がった物が下に静かに落ちてくる。さらに巻き上げようとするどす黒い風・・・




倫子の髪はさらに輝き、見ている者は目を開けていられないほどだった。






と・・・闇が光を飲み込もうとするかのように黒い渦を発生させた。あの渦だ。


対してヒカリもすべてを浄化するような強い光を発している。倫子から発する光も空中へ駆け上り、光と一緒になる。・・・光と黒い渦・・・お互いぐるぐる回る。融けて1つの渦になる・・・光か?・・・闇か?




どのくらいの時間が経ったのだろう。一瞬だったのかもしれない。




カッ・・・辺りが明るくなる。ヒカリも闇もほどけてもうどこにもない。


空はどこまでも青い。綺麗に晴れ渡った空だ。どこに行った?光?




応えはない。




倫太郎が倒れている・・・ぼんやりと倫子は彼を見つめていた


我に返ったのは影が早かった。影は、


「倫子ちゃん?」


と声を掛けた。


倫子の髪はまだまきあがり、金色に輝き続け・・・やがて光をなくした髪がほどけ・・・落ちていく。


光が消えた後,立っているのは金の髪の・・・6歳ほどの少女だった。少し成長したその姿でなく・・・光も闇も・・・消え・・・どこにもいない。




「倫太郎君。」


我に返った倫子は倫太郎の体に駆け寄った。


闇の神官か?倫太郎か?


・・・


倫太郎はうっすら目を開けて微笑んだ。


倫太郎だ。


倫太郎の中から闇の神官はいずこへと出ていっていたのか・・・




「あれを・・・壊すんだ。」


倫太郎が示した先には鏡。魔境だ。




「・・あれは異界からのもの。あれから嫌な気配が照射されている。あれがつぶやく言葉・・・このままにしておくと、また何かが起きる・・・」


よろけながらも倫太郎は立ち上がった。


いつの間にか井部も、影もそばにいて倫太郎を支えている。




「破壊したら早くここを脱出するんだ。」


影が言う。


「この神殿は崩れる。


俺の仕込みで・・・」


影の仲間はとっくに神官達を連れ出し、周りの者達の避難も終わらせているという。






魔鏡・・・


倫子はそれをきっとにらんだ。倫太郎が手を添える。


二人は両手に力を込める。


悪意、人にあだなすもの!!消えて!!!




強い思いが辺りに満ちる。


全てが変わる。


全てが満ちる。








・・・爆発?・・・炎上?・・・




危ない・・キケン・キケン・・・




光と闇は?どこ?




ダイジョウブヨ


ワタシモ ヤミモ




モウ ヤミハ ワタシノトコロニ


カエッテキタノ


ヤミノ シンカンモ


ヤミノ イチゾクモ


モウ イナイ




アトハ・・・・






光?光?


もう彼女は応えない・・・・




帰りたい。菜の花畑に。二人で。いいえ。みんな一緒に。強く願う。




また光・・・




・・・・・・






「え?ここは?」


「・・・菜の花畑の真ん中だ。」


「一瞬でここか。」




枯れてしまっていたはずなのに・・いつの間にかまた満開になっている金色の菜の花畑。


城山の家の菜の花畑だ。向こうに家が見える。


影も、井部も目を白黒させて突っ立っていた。




倫太郎がよろめいた・・・


「危ない。」


影が支えようとするが間に合わなかった。


倫太郎は菜の花畑に倒れた。




倫子は倫太郎にすがりついた。


「倫太郎君・・・」


嗚咽で声が引っかかる。




倫太郎は倫子の手にそっと触れ、にっこり笑った。




「倫子ちゃんのおかげで・・僕が望んだ・・僕たちが望んだ世界が・・・やがてやってくる。


・・・僕はしばらく眠るけれど・・また・・いつか・・きっと・・会おう・・・」




倫太郎は菜の花の中でそう言ったあと・・・意識を失った。




「いやぁ!!」




 影の持っていた端末から連絡を受けた城山氏と城山教授、倫太郎の父と母が家から走ってきた。使用人の人たちも。


泣き叫ぶ倫子を倫太郎君から引き離したのは井部と影だった。


「倫太郎を診てもらわなければならないだろう?」


「さあ離れないと診てもらえないよ。」


「このままにしておけないだろう・」


・・・・・


 城山教授は素早く倫太郎を診た。




「家に。とにかく家に運びましょう。」




家に運ばれた倫太郎は昏々と眠っていた。


 どんなに呼んでも、誰が呼んでも、倫太郎は目を開けなかった。


 何人かの医師が呼ばれ・・・去り・・・




・・・倫太郎は点滴や、いろいろな機械につながれた。


2~3日ほど過ぎ・・・


 城山氏は枕元に座っている倫子に言った。




「倫太郎は眠っているだけだ。


・・・後・そう10年もしたらきっとまた目覚める・・・


10年たてば、始原の光はこの世界に満ちる。


世界中の人たちに幸せな光が降り注ぐ日が・・・


君の世界だったあの世界にもきっと光はこぼれてあふれていくだろう。


倫太郎の望んだ世界だ。


そのときこそ倫太郎はきっと目覚めるだろう。」




 倫太郎は天の神殿に運ばれていった。


 病院よりも光に満ちあふれるここがいいのだという。




 天の神殿に置かれたガラスの箱の中でたくさんの装置につながれて倫太郎は眠っている。




「白雪姫みたい・・・」




「その話は?」


・・・


「異界の話だね。」


・・・


「倫太郎の話はきっとその話と一緒に広がるかもしれないね。」




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