第58話


私の頭は混乱している。


倫太郎君じゃなくて倫太郎君であるからだが嫌な気配を漂わせて立っている。


影や井部先輩と何か言い合っているようだが私には内容が分からない。




鏡?魔境だわ・・こんなところに・・映っているのは悪魔?何?


鏡から嫌な気配が漏れ出ている・・・もしかしたらこの鏡こそが元凶なの?



俺たちは何だ,善だ。


 おまえ達は何だ,悪だ


 全部一つになり


 全部二つになる


 俺と一緒に考えようじゃないか


 本当の善とは何なんだ


 俺たちは何だ,善だ。


 おまえ達は何だ,悪だ


 全部一つになり


 全部二つになる


 俺と一緒に考えようじゃないか


 本当の善とは何なんだ




あの詩が聞こえる・・・まるで呪文のように繰り返し繰り返し・・・あの鏡から。




どうしたらいいのかしら?




ヒカリ、ヒカリ。




私は必死に呼びかける。倫太郎君どこ?どこにいるの?




倫子ちゃん・・・




どこかからかすかに聞こえる。倫太郎君の声だ。


どこ?




ヨワッテイル デモ ミツケテモラッタ 


カゲノナカマガ ココニ ツレテクル




光・・・ありがとう。




ふと気づいた。あの神官は銃を持っている。


ああどうしよう!!!


神官の一人が影と井部先輩に銃を向けて何か言っている。何を言っているの?


銃を下ろしたわ。倫太郎君の体が嫌な笑い方をしている。いやっ・・・




がたん。倫太郎君の気配。私はドアに走り寄ろうとした。


影が私を引き留める。いやよ!!




叫びが体から光となって四方に照射された。


神官達が倒れていく。




ドアが開き、一人の老人が何人かの人と一緒に入ってきた。今にも倒れそうな老人。


「倫太郎君!!!」


私は今度こそ本物の倫太郎君に駆け寄った。






倫太郎君の体と神官達はゆっくり立ち上がる。


 老人と一緒に入ってきた者達は、影の仲間のようだった。神官達を次々と拘束していく。




「やってくれたな。」


 倫太郎君の体が憎々しげに言う。


 影はすかさず倫太郎君を押さえ込もうとする。




・・・・・ 




でも・・・ゆっくり立ち上がった倫太郎君の体の手には・・銃だ。


その銃を私に向け・・・・・・


「わしの物にならないおまえには用はない!!」


私は叫ぶ


「いやっ」


再び光。


それと一緒に銃が私に向かって発射される。




ずぎゅーんと言うような音。突き飛ばされた私。誰かが倒れる音。




・・・・・




撃たれそうになった私を突き飛ばすようにどかして代わりに撃たれたのは老人姿の倫太郎君だった。



「い・・いやっ!!倫太郎君!!!」


倫子は叫んだ。


倫子の足下に老人が倒れ・・・血が沢山流れている。


倫子は崩れるように座り込んだ。


そっと老人に触り・・つぶやくように言い続ける・・・


「倫太郎君?倫太郎君?」




「ははははは。うっかりわしの体を殺してしまったわ。これでこの体は完全にわしのもの。」


狂ったように笑う倫太郎の体・・・




我に返った倫子はさっと立ち上がった。


「させないわっ」




「おまえに何が出来るというのだ?」


さらに哄笑は続く。


うるさい・・頭が痛い・・光・・・光,そうよ。私の


「光!ヒカリ!!どこなの?」




不意に光が差し込んできた。




ツカマエタ リンタロウクン




マニアッタ・・・




カラダニ カエスワ




テツダッテ




 倫子は怒りと悲しみにどうにかなりそうだった。


だが,倫太郎はまだここにいる。光がつかまえてくれている。


倫子の金の髪の毛がぶわっと広がる。全身が金色に光る・・・




おおっ




周りの者達のどよめきが聞こえる。敵も味方も一斉に武器を取り落とし跪く。




倫子は自分でも体が輝いているのが分かった。すっかり擬態が解け、少女の姿になっていることも・・・


「倫太郎君!!!」


声なき声で叫ぶ。




髪がしゅるしゅるとのびていく・・・そして、倫太郎の姿をした神官をとらえた。


金色に光る髪に巻かれた倫太郎の姿が必死に髪を引きはがそうとしているのがみえる。


そのうちに、倒れ込んだ倫太郎の姿の神官は、頭を押さえ、のたうち回り始めた。


「倫太郎君を返せ!!!」


倫子の血を吐くような叫び声が響き渡った。




すると・・・鏡からどす黒い何かがあふれ出してきた。 倫太郎の体からも・・・


闇だ。闇があふれている。


 鏡からあふれ出してきた悪意さえ感じられるその闇は、倫太郎の体から出てきた物と一緒になって渦を巻き・・・やがてヒトの姿を取った。


倫子の中から呼応するように光があふれ出し,・・・ヒカリもヒトの姿を取った。




部屋の天井はいつの間にか抜け、空が見える。どんより曇った嫌な色の空。




闇と光は凄い風とともに空中に駆け上がっていった。



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