第56話

帰りもここで。


約束した後、車は帰って行った。




倫子達は駐車場を抜け、神殿の前の広場に来ていた。


天の神殿の周りは静寂・・・と倫子は思っていたのだが、ここは賑やかな広場になっている。


 花やジュースなどを売っている屋台、何らかの揚げ物を売る屋台・・・ちょうど準備中のその中を抜けて・・三人は神殿に向かう。




 綺麗な花が店先で揺れる。華やかな花屋。


 ジュースを作る機械が試運転の音を響かせる。店を開く準備をする人々の話し声や笑い声が響き渡る。その中を歩きながら、倫子は考え続けていた。




影は・・


「倫太郎の波動と違う波動の人物だった。」


と言っていたが・・・


『倫太郎君だとしたら?操られている?』


倫子も井部もそう思ったようだ。




「操られているなら、倫太郎の波動は残るはずだ。


だが・・・奴からは倫太郎のカケラも感じられなかった。


でも・・・見た目はそっくりだから・・・」


影は言っていたが・・・倫太郎君であって、倫太郎君でないもの・・・それは誰?




リンタロウクンハ ココニイル


イマハ ヤミノ シンデンノ ナカニ


トラエラレテイル




久しぶりに倫子ははっきりしたヒカリの言葉を聞いた。


それを二人に小声で伝えると、二人とも困惑した表情になった。




「闇の神殿?


あの建物の中にそんな場所があっただろうか?!」


影は盛んに首をかしげる。


「どこかから入れるのかもしれないぞ。」


考えていてもらちがあかない。


とりあえず、三人で神殿に入ることになった。


「倫子ちゃんは、言葉がうまく話せないんだよね。


俺たちの側から離れないでくれよ。」


言われるまでもない。一人では何も出来ない・・・また考えてしまった。




 ここの神殿は観光で来る人もとても多いと言うことで、神殿の入り口には、驚いたことに料金所があった。


「お金を払って入る?」


倫子が驚いているうちに、影が三人分の料金を当然のように支払った。




 入り口近くや入ったところには、お札や何かのお守りグッズも売っているようだった。


 中都国の天の神殿とはなんと大きく異なっていることか。倫子はますます驚いた。




 まだ朝早いので、訪れる人も少ないようだが。おそらく、かなり賑わうのではないかと思われる。思わず倫子は周りをきょろきょろ見回した。何か怪しいところはないのか?そんな気持ちで。




 中に入った倫子は


「・・・おかしいわ。中都国の・・・天の神殿でいつもなら感じるすがすがしさがここの神殿にはないみたい。 何となく嫌な感じが漂っているわ。」


と思った。


その印象を二人にこっそり話すと、影も何か感じていたようだった。


「俺はここにあまり長くいたくない。俺の中の物が・・引きずられるような感覚さえ感じられるんだから。」


井部からも、


「俺もなんか嫌な感じは分かる。それが何かどういう物かは分からないが・・・。」


小声で答えが返ってくる。




三人で神殿の中心である祈りの間へと歩を進める。嫌な感じはますます強くなる。


 もう倫子の顔は真っ青で、額には脂汗さえ浮かんでいた。


影がさりげなく倫子の腰を抱き、あたかも仲の良い夫婦のように見せかけて歩き続けた。




祈りの間・・・そこでは何人かのロザリア人が座って祈りを捧げていた。




「優子?大丈夫か?」


『優子?誰?・・・ああ今の私は優子。』


影が答えられないくらい汗びっしょりで青い顔の倫子を、祈りの間の椅子に座らせようとすると・・・




『この椅子は嫌』


倫子は嫌々をした。影も何か感じ取ったのか・・・眉をひそめ、椅子を見た。




椅子から立ち上る何とも言えないまがまがしさ。負の力・・・悪の力・・・闇?・・・何だろう。座ろうとした井部は思わず顔をしかめて影を見た。




影は何かに気づいたようにはっとして顔を上げ、さっと倫子を抱き上げた。


井部に、


「出るぞ。」


 一言伝えると、出口の方へ歩き出した。


・・・三人で出口の方に向かうのと、何人かの神官が入ってくるのはほぼ同時だった。




・・・キタワ キタワ・・・

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