第54話
ホテルの部屋。影がもらった情報を三人で確認する。
『神殿』
一言だけ書かれた紙。
井部先輩は端末を出していじり始めた。
どこかと連絡を取っているようだ。セキュリティは大丈夫なんだろうか。ふと思う。
ダイジョウブヨ ダイジョウブ
光だ。
光が回線を守っている。
コノヘヤモ ダイジョウブ・・・
すぐにでも神殿に行きたいと焦る私・・・
でも二人はもう夜だから明るくなってからにしろって声をそろえて言ってきた。・・・でも・・でも・・・
「我々は城山氏に頼まれているんだ。君の安全をね。」
そう言われたら何も返せない。一人では何も出来ない自分が歯がゆい。
神殿には結局明日行くことになった。
仕方がない。自分に言い聞かせる。無理をしても何もいいことはない。特にヒカリの声がよく聞こえない今は・・・
お休みなさいを言って部屋に戻り、簡単にシャワーをした後・・・眠る・・・擬態は解かない。夜中に何かあったら困るから。・・・眠りはなかなか訪れない・・・カタン・・・何か音がする・・・何だろう・・・思っているうちに眠ってしまったらしい。
朝起きると、井部先輩しかいなかった。
「近藤さんは?」
「駄目だよ。旦那さんのことを近藤さんと言っては。」
誰が聞いているか分からないだろう・・・
そうだった。
「有紀さんはどこに行ったの?」
井部先輩はにやりと笑った。
「先に神殿に行ったよ。」
聞けば彼は夕べのうちに神殿に忍び込んだという。
「大丈夫さ。腐っても影だ。」
「私たちも早く行きましょう。」
と言うと、
「我々はちゃんと食事をしてから行くよ。」
と返された。確かに一晩中擬態を解いていなかったので、猛烈にお腹が空いている。
ホテルの朝食も質素だった。正直、擬態をしている我々にはとうてい足りない量だった。
部屋に戻っておばあさんの錠剤を二人して飲んだ。飲むとしばらくして飢餓感が消えた。擬態は健在だ・・・さあ。行こう。
「ちょっと待って。」
井部先輩は端末でなにやら連絡を取り始めた。
私は内心いらいらしているが,
「神殿が開くのはもう少ししてからだよ。
早く行ったところで中には入れるわけじゃない。
我々は影じゃあないんだから。」
と言われれば、なるほどその通りだ。
焦るな・・・焦るな・・・・何回この言葉を自分に言い聞かせているんだろう・・
倫太郎君。心の中で呼びかけてみる。指輪を握って・・・
・・でも・・・答えはない。
ヒカリ?
ヒカリも沈黙したままだ。
やがて・・・ホテルの入り口のところに来たタクシーに乗り込んだ私たちは、ようやく神殿に向かった。
タクシーの運転手は,井部先輩の仲間だった。つまり政府関係者。この国に来て3年になるそうだ。時々こうして要人の運転手役を務めているという彼は、倫太郎君を最後に乗せたという人だった。
「あの日、ちょっとした事故が重なったので、午後遅く飛行機が着いた時は行ける人間があまりいなくて・・・」
運転しながら思い出し思い出し話をしてくれた。
「私の車に乗ったのは、元首と倫太郎君でしたよ。
元首と倫太郎君は二人で楽しそうに話をして・・よく笑ってましたね。
倫太郎君は,、これが終わったら帰れるってうれしそうだったし。
そうそう護衛の人も助手席に一人乗ってました。」
「他の側近の人は?」
「あと3台に他の側近の人と護衛の人が乗っていましたね。
1台は我々の前を走り、他の2台は我々の後ろを走ってました。」
・・・・・特に変わっているわけではない?
「そのほかにもこの国の警備の者達の車が少なくとも4~5台いましたよ。
そうそう。元首一行の護衛や側近達を乗せた3台のうち1台は、我々の仲間じゃない、ロザリア人の運転でした。」
「もしかしたら?」
私が聞くと、
「ええ。我々も真っ先にそれを疑いました。」
とその人は言った。
井部先輩が吐き捨てるように続けた。
「側近と護衛の連中はとっくに確認済みだよ。12人のうち、4人は違う人間にすり変わっていた。」
「え?」
まさか?
「父は父だったよ。ありがたいことにね。」
では・・・倫太郎君は・・・おそらく、そのすり替わった4人の護衛か側近の誰かにおびき出され、どこかに拉致監禁されたに違いない。
「俺たちもそう思っているよ。だから影は夜のうちに忍び込んだのさ。」
・・・シンデンヨ シンデンニ スベテノ カギガ アルワ
・・・光の声がする。今までの声よりもか細い声だ。
デモ イソイデネ トテモ イソイデネ・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます