第33話 私は混乱している?

 次の週、倫太郎君はまた呼び出されたとかで、朝起きたらもういなかった。凄く心配して行ったということで、みんなに耳にたこができるくらい

「用心しろ,指輪ははめたか」

 などと言われた。


車に行ったら、驚いたことに広川さんが待っていた。

「どうしたんですか?」

広川さんはにこにこしながら、

「うん。倫太郎君に頼まれたのよね。」

って・・・

・・・まさか・・・そこまで過保護とは・・・

車の中で、大事な友達と思っているけれど、自分は政府関係者の娘なのだから、倫太郎君のいない間は、一緒に行動したい。といわれた。

「義務感じゃないのよ。大事な友達だって思っているからなの。」


ウソジャ ナイワ


ヒカリの声がする。


コノヒトハ ダイジョウブヨ


二人で登園する。

車から降りたところに転入生が二人で立っていた。

まさか私を待っていた?訳ないわよね。・・・。

二人で顔を見合わせる。



「おはようございます。」

広川さんはじろりと二人を見た。

「おはようございます。こんなところでどうなさったの?水戸さん、東さん?!」

二人はにっこり笑って

「今着いたところなんだよ。」

「僕もさ。」


・・・・・


 倫太郎君がいない今日に限ってなんなんだ・・・

 しょうがない。4人で何となく固まって教室に向かう。

 広川さんはしっかり私と手をつないでいる。お互いの手が汗ばんでいるのが分かる。広川さんも変だと感じているんだろうか。

 そういえば広川さんはどこまで知っているんだろう。疑問が浮かぶ。


 何事もなく教室に着き、自分の席に向かう。鞄の中身を出し、鞄をロッカーに片付けようと立ち上がる。いつの間にかまた広川さんがそばに来ている。

「一緒に行きましょ。」

 ロッカーは鍵付きで、共有スペースに置かれている。2つのクラスに1つのロッカールームと考えていい。私のロッカーは一番下の段だ。

 ロッカーに片付けながら,

「リンちゃん,油断しちゃ駄目よ。」

って小声で言ってくる。

 見上げると、思いの外真剣な顔をした広川さんがいた。

「絶対一人になっちゃ駄目よ。私か、山名さん、英田さんと一緒に行動してね。」


「あの二人のことを何かご存じなんですか?」

 私も小声で聞き返す。


「分からないの。どっちか一人はリンちゃんの護衛の人だから・・・味方のはず。でも、もう一人は味方なのか、味方じゃないのかも分からないの。」

 だから、気をつけましょうね。と広川さんは結んだ。私たちの情報と同じくらい分かっているらしい。お父さんが確か中都国政府の次官だったような・・・・。実際、政府で何をしている人なのかは知らないけれど・・・


今日の授業は1限目から呪術だ。私は一人で動かなければならない。そう言うと、広川さんは困ったように眉間にしわを寄せた。

・・・

しばらく考えた後、ポケットから端末を出す。

・・・

 話す相手は?学園長?おじいさんだ。

・・・

 しばらくして通信を切った広川さんはにっこり笑って、学園長が迎えに来るとこともなげに言った。おじいさんの連絡先も知っているんだ?これも倫太郎君から知らされているのかな?


 ホームルームの後、みんながそれぞれ移動を始める。転入生の一人は、山名さんと同じ人の力を持っているらしく、山名さんに引っ張られて行った。もう一人は、地の力だが、力がほぼないと言うことで、英田さんが一緒に連れて行くことになった。


 誰もいなくなった。その教室におじいさんがやってきた。

「ふうん。空気は普通だね。」

「私もそう思います。」


 おじいさんと二人で学園長室に行く。普段なら、倫太郎君がいなくてもA教室に行くのだけれど・・今日は特別だ。

おじいさんと二人であの事件の後各教室に取り付けられたモニターを学園長室で見る。

 まず、B教室の黒髪の水戸君を見る。

 山名さんにも自然に接しているし、見たところ変な風には見えない。

 C教室の英田さんと一緒に行った茶髪の東君の方は・・・こちらも変な風には見えない。

 では、どうして朝、二人が待ち伏せていたのか・・・。

・・考えすぎか。


「倫子ちゃん,、心配はしすぎても良くないのかもしれないが、何かがあってからでは遅いから・・十分気をつけるんだよ。」


ほとんどの人が教室に帰ってきているのを確認してから教室に送ってもらう。

2時間目の用意をする。ああ。外国語だった。これも教室を移動することになる。私はイミグランド語を選択しているので、広川さんと一緒に行動する。

「父がね。ついに折れたのよ。」

広川さんはうれしそうだ。

「え?」

何がうれしいのかな。

「ふふふ。留学よ。留学。今すぐじゃないけれど。うれしいわ。」

 留学!なんて甘美な響き。私も学生時代行きたかったなあ・・・


 お昼はみんな中庭に集合だ。10人以上いつもいるようになったなあ。

 みんな優しい。この世界にはいじめなんて言葉はないのかな?

 ちょっと淡くなった瞳の色も、髪の毛が薄い色になったからそう見えるだけだと思ってくれているし。いや。本当は変だと思っていても言わないだけなんだろうか。そうだとしたら大人だな。


 神殿に向かう車の中で、私はとりとめなく考える。

 明日は体育がある。私は見学だ。一人になって見ていなければならない。男子は違うところかと思ったら、体育祭が近いので、男女ともグラウンドで体育の授業だという。気をつけなければ。




 この日の神殿での勉強は、願いの力についてだった。願いにも力があるのか・・・


 何にでなく・・何を・・・


 信じるのは何に?信じるって何を?


 だんだん混乱してくる。




 ジブンヲ シンジルノヨ ジブンノ チカラヲ シンジルノヨ 






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る