第34話 私と光

火曜日。今日ももちろん倫太郎君はいない。


車寄せのところには広川さんが待っていてくれた。


二人で車に乗り込んで学園に向かう。




 さすがに2日続けてはあの二人はいないだろう。そう話していたのだが・・・いた。これはやはり意図的に待ち伏せていると考えていいだろう。


「おはようございます。」


「おはようございます。」


 知らん顔してお互い挨拶をする。私たちが来るまで、この二人は何をしているのかな。ふと思う。


 仲よさそうなわけじゃない。いつも2~3M間を開けて立っている。お互い相手の右に行きたがらない。前にも行きたがらない。


 私たちが手をつないでいるから仕方なく、私たちの前後を歩くといった感じがする。




・・・・・




1時間目は数学。


だんだん難しくなってきて、前の知識だけではなかなかついて行けなくなっている。これはもう少し勉強すべきだ。反省。黒髪の水戸君は数学が得意みたい。

いつも嬉々として発言しているように見える。


 2時間目のイミグランド語


少しは会話になってきたかなあ。広川さんは凄いよ。イミグランド人の先生と対等にイミグランド語で会話している。さすがに留学を考えているだけのことはあるなぁ。いいな。夢があって。・・・いや。私もこれからだった。私にはもう一回やり直しが許されている。ありがたいことだ。


 山名さんの語学力は私と同じくらいかな。でも文法になると山名さんの方が出来るようだ。英田さんは、広川さんに近いくらい。よく分かっているし、会話もスムーズだ。

「今度教えてね。」

「あら。リンちゃんに教えることがあったわ。うれしいかも・・・」

あの二人の転入生も違和感なくみんなに溶け込んでいる。


 午前中の授業は滞りなく終わり、いよいよ午後は体育だ。


・・・・・


一恵さんに持たされた大きな帽子をかぶり、女子が集合しているところに広川さん達と一緒に行く。


10月とはいえ、まだまだ日差しは眩しい。私の世界と連動しているなら、ここ何年間か暑い秋だったはず。




一応私も見学とは言え、臙脂の体育着に着替えている。前の小学校の体育着の色みたい。「ださい」って子ども達が言っていた。この体育着の色も臙脂だけれど、ださいとは思わない。


 上着には白い丸い襟が付いていて、襟元に校章が刺繍されている。袖も小学校の体育着みたいにゴムっぽくしているのではなく、丸いカーブがいくつか付いていて花びらのようだ。その上、邪魔にならないように腕にぴたっとフィットしている。


 ハーフパンツはクリームっぽい白色地に臙脂の線が2本。裾はやはり花びらのような形でこちらも足にぴたっとくるようになっている。凄くおしゃれ。


 男子の方は袖の形が丸くない。普通のTシャツの袖のようになっている。

 まあ、男子がこの体育着では少し変かな。男女差別ではなく、区別だね。

 この体育着も新しくしたんだっけ。夕べ一恵さんに渡された体育着は、真新しくて白い不織布の袋に入っていた。運動用の靴もサイズが上がって、今は20㎝になっている。


チリリ・・・胸の奥で何かが鳴った。ヒカリあなたなの?


彼女の何かで私の体は成長した。


・・・


 体育の先生が椅子を用意してくれていた。

「ありがとうございます。」

椅子に座って活動の様子を見る。

今日は100Mのタイムを取るそうだ。

みんなにこやかに笑って並んでいる。

こっちに手を振ってから走り出す子もいて楽しい。

「がんばって」

手を振ってくれた子に、思わず声を掛けてしまう。


チリリ・・・胸の奥でまたもや鳴る。


私は油断なくあちこちを見回す。


黒いもやは見えない。


・・・ヨウジンシテ  ヨウジンシテ・・・


・・かすかな揺れ・・・地震か?


・・・


不意にグラウンドの上空に黒い渦が現れた。まがまがしい黒い気配。ゴゴゴ・・・何かを吸い込むような音がする。砂埃が舞い上がる。




「きゃー」

「な・・なんだ?」

わーわーっと悲鳴でグラウンドが埋め尽くされる。


威圧感・・・黒い渦がすべてを押しつぶし、吸い込もうとしているかのように感じられる。重い。苦しい・・・指輪を握りしめる。


どうしたらいいの?



私は思わず両手を握りしめたまま前に突き出す。指輪が熱い。燃えるようだ。

両手をぱっと広げる。口から意図したわけでもない言葉が発せられる。

「消えて!!!」


同時にぱあっと光が満ちる。


グラウンドが白く光る・・・・眩しい




・・・・・




光が消えた後、風はやみ、黒い渦も消えていた。何だったのだろう。


さっと辺りを見回す。あの二人がじっとこちらを見ていた。でも・・・二人とも私と目が合う前にさっと顔を背けた。怪しい?


・・・・体育はそのまま中止になった。


みんな青ざめた顔で更衣室に戻る。私が何かしたと感じている子も多いようだ。彼女らは、


「ありがとう。リンちゃん。」

「助かったわ。」

御礼を言ってくる。

「私、何もしていないわ・・・」

「私見たの。リンちゃん光っていたわ・・・」


・・・困った。



この日の帰り、神殿に行った。本当は、月・水・金と通っているのだけれど。


 おじいさんの指示だ。昼間の黒い渦と光について検証するという。もちろんおじいさんもついてきている。




 ダイジョウブヨ ダイジョウブ・・・


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る