第31話 広川夏美は困っている
・・・・広川 夏美
今日から学園の授業が始まる。夏休み前、お見舞いに行ったっきり会ってないから、2ヶ月半ぶりに倫子ちゃんにも会える。あの子、妙に大人びたところがあるのが面白いわ。
「おはよう。英田さん。」
「おはようございます。」
いつも落ち着いているわねえ。この子。私なんてみんなに会えるのがうれしくてワクワクしているのに。
「おはよう。山名さん。」
山名さんはうれしそうに私のそばに来て
「おはよう。リンちゃんくるかな。」
って言う。それから冬彌君のことを見つけて走り寄っていった。そうよね。夏休み明けだから普通こうよね、
「おはよう!!」
「おはようございます。」
そこここで挨拶の声がする。中には
「宿題見せてくれよ。」
なんていうすごい声も聞こえてくる。2ヶ月半、何をしていたのかしらね。
・・
そろそろ授業が始まるというのに、倫子ちゃんが来ない。どうしたのかしら。
倫太郎君が来ないのは、いつものことだから気にならないけれど。倫子ちゃんはこの前襲われたばかりだし。また何かあったのかしら。彼女が端末を持っていなかったのは残念だった。この時間が終わったら、家に連絡してみようか。
東野先生が入ってくる。
「東野先生。倫子さんはお休みですか?」
山名さんが聞いている。彼女も気にしていたんだね。
「ええ。学園長から連絡が入っています。」
机に出席簿を置いて、先生が応えてくれた。
「また怪我ですか?」
誰かが聞く。
「いいえ。」
東野先生が苦笑した。
「何かご家庭の事情のようですよ。今回は心配しなくて大丈夫です。」
クラスのみんなが一斉に安堵の息をついたのが分かった。
40人のクラス。そのうちの4人分が空いている。二人はすでに留学の名目でいなくなっているのに机はまだ置いてあるのか。
「二人が一緒なら心配はいりませんよ。」
と東野先生は言い,
「それより、転入生を紹介しますね。」
と続けた。見れば扉の影に副担任の三波先生と一緒に誰か立っていた。
促されて入ってきたのは二人の男子だった。え?二人・・・
「エチーゴ市から来ました。水戸 浩介です。
よろしくお願いします。」
この人?
「今回はもう一人います。夏休み前に人数が減ったのはこのクラスだけでしたので。」
「東国からの転入です。
東 稟太郎と言います。」
あずま りんたろう・・・りんたろう・・・同じ名前とは・・・何かあるんだろうか。
それより・・どっちだ?
授業は進み、昼休み。中庭に集まる。本日は集まりの芯の倫子ちゃんがいないけど、クラスの女子の大半がいつのまにか集まっている。
「転入生が二人とは、驚きよね~」
「二人ともなかなかいい男じゃないの」
「そうよね~」
こっちでは、転入生談義が花開いている。
「山名さん、夏休みはどうだったの?」
誰かが山名さんに話を振った。
「え~」
山名さんがほほを染める。
「さては、何か進展があったな。」
みんなにやにやして山名さんを見る。
「今日はリンちゃんがいないから思う存分聞き出せるわ~」
「そうよね~」
「ききたいわ~」
英田さんも突っ込んできたわ。
「やめてよ~」
「ほれほれ・・」
英田さんと山名さんの掛け合いを聞きながら、夕べ父に話されたことを反芻する。
父はいつになく厳しい顔をして、夕べ私を書斎に呼んだのだ。
『城山氏のところはこれからますます大変になりそうだ。
学園で、倫子さんのことをくれぐれもよろしく頼むとお願いされた。この前はおびき出されてしまったようだが。さらに気をつけてやってくれ。
それで、一人、政府から監視というか・・護衛というか・・・そういう人物を派遣する。
さりげなくその人物のフォローも頼む。』
政府が派遣する護衛?倫子ちゃんに?どういうことだ?そんなことはおくびにも出さず、
『お父様、高く付きますわよ。』
と茶化してみる。
『分かっている。この事態が解決したら、イミグランドへの留学を許可しよう。』
・・・
私は驚いた。今まで何があっても許可できないと一点張りだった父が許可するというのだから。
『すべて解決できたなら・・・どこの国でも・・・・』
父は口の中で何かつぶやいて・・それからにこやかに笑って、いつもの父の顔になっていた。
・・・
でも二人とは・・・どっちが父の言う護衛だろう?もしかしたら二人とも?それとも一人は例の3人のような立場の人物だったりして・・・油断できないってこと・・・
もどかしいわ。どうやって確かめようか。父は名前は知らないと言っていたし・・・
・・・私は気が付かなかった。
・・影から私に鋭い視線が注がれていたことに・・・
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