第29話 私は戸惑っている

金色の光・・・


 目をこする。見える。金色の光の塊。


 金色の光。丸い塊のように見えるそれは、柔らかく私に触れるように私の周りをゆっくり巡った。


熱い?・・・・いや。触れてきたそれは温かかった。


 ・・・コノ ヒカリハ ナンダ?


 ソウイウ アナタハ・・ワタシノ ヒカリ


 アナタガ ヒカリデショ


 イイエ アナタコソ ワタシノ ヒカリ


 ヒカリ?


 ヤットミツケタ・・・ワタシノハンシン


 ・・・・・




・・・・・・・・・




 光は私の周りをだんだん速く巡る。くるくるくるくる・・・・




 あぁ目が回る。眩しい・・・




・・・・・




 気がつくと朝だった。


 私はちゃんとベッドに寝ている。




 光・・・光はどこに?


 辺りを見回しても何もない。いつもの部屋だ。


 夢?




 ワタシハ アナタ アナタハ ワタシ


 どこか遠い胸の奥で何かが小さくささやいた。


 ヤット ミツケタ ワタシノ ヒカリ


 ワタシハ アナタ アナタハ ワタシ





ぼんやり座っていると、一恵さんがいつものように私を起こしに来る。

「おはようございます。」

ノックの音に応える。

「はい。起きています。」


「いつもちゃんと起きていらっしゃいますね。」

と言いながら一恵さんが入ってきた。

「おはようございます。」

私はのろのろとベッドから降りていつもの朝の支度を・・・ 



「そ・・その姿は・・・

 ・・そ・・その髪はどうなさったんですか?」


一恵さんの焦った声がする


 髪?


 手を髪にやり目の前に持ってくる。

 さらりとした手触り。

 いつもの手触りだ。

 でも

 あれ?なんか長い。


・・・


 おまけに色が・・・




 「金色????」




慌てて脱衣所に向かう。大きく壁一面にある鏡を見るために。




 そこには長い金髪の・・6歳より少し大きくなったように見える少女が写っていた。


 目の色も少し違う。濃い紫に見えていた目が・・今は淡い紫色だ。


 これはいったいどうしたことだろう。




ワタシガ アナタダカラヨ




胸の奥で声がする。




あなたは私?!

夕べ・・途中で意識がなくなっているが・・・そう。

ヒカリは私と重なり、一つに融けた。ぐるぐる回って・・・


一恵さんがいない・・いつもは端末で話をして私のそばを離れないのに?


 一人で制服に着替える。せっかくの秋服。


 濃い茶色の制服に白いブラウス、臙脂のリボン。上着と同色のプリーツスカート。きつい。上着はなかなか入らない。まだ暑いから、ブラウスだけでいいか・・・ブラウスもきつい。




 ようやく制服に袖を通し、用意された朝食を取る。


 あまり食欲もないが、とにかくがんばって食べる。食べているうちに連絡を受けたのだろう。慌ただしくおじいさんとおばあさんがやってきた。その後ろから一恵さんも入ってくる。わざわざ呼びに行ったのね。端末使わないで・・・ぼんやりそう思って三人を見上げる・・・



二人とも私の姿を見て息をのんだ。


・・・・・


 かなり窮屈になった制服姿の私は今、応接室でおじいさんとおばあさんを前にして座っている。


 おじいさんもおばあさんも私を見ながらう~んとうなって黙り込んでいる。



そこに、坂木さんが慌ててやってきた。ノックの音ももどかしく、返事も待たずに入ってくる。珍しいことだ。


「どうしたね?」


「大旦那様。実は、南側に咲いていた菜の花が全部枯れてしまったという報告が入りました。」


「なに?!」


「ええっ」


 屋敷の南側に広がっていた、あの金色の菜の花畑の花々が一夜で枯れてしまった!!!


慌てて二人は菜の花畑を見に立ち上がった。


「倫子ちゃん、今日は学校を休みなさい。」


 そう言って。


 せっかく夏休みも終わり、久しぶりにいろんな人と接することが出来るのに。


 休みなさいって学長が言うのは・・・でも。



 この姿では・・・。


・・・私は楽な私服に着替えた。


 一恵さんが、


 「こんなに早く大きくなるなんて。


 ・・・うん。作り直しですね。」


 と言って、制服を持って出ていった。現実的な人だ。驚きから早くも立ち直って日常に目を向けている。制服は一回り大きめのものに取り替えるらしい。


・・・だから最初に、全部作るのはどうなんだろうって言ったのになあ。




 いや。夕べから今朝までの間に10㎝以上も伸びるなんて、私も誰も思っていなかった。今の身長は135㎝くらいだ。小学校3~4年生くらいか。昨日まで117~8㎝位だったと思うから・・・へたしたら15㎝以上も大きくなっている。




 あれは夢ではなく、実際に私の体におこったことなんだ。ヒカリが私と一体化した。ヒカリに引きずられて体が急に成長した。と考えていいのかな。


胸の奥でチリチリ・・・鳴るものがある。ヒカリ?あなたなの?




 おじいさんとおばあさんが戻ってきたという連絡を受けて、図書室に戻る。


「学園には体調が悪くて欠席するという連絡を入れたから、心配しないで」


 おばあさんが言う。



「菜の花畑は壊滅的だ。」


 おじいさんが言う。


「薬は3年分くらいストックされているから・・・少し種も取れそうだし。まあ。何とかなるでしょうが。でも・・・・・」


「・・・何で今なんだ。」


今、日の本連合は、いろいろ大変な時期にさしかかっているらしい。


おじいさんが言いよどんだので、私は昨夜のことをぽつりぽつりと話し始めた。


話が進んで、金色の光が


「ワタシハ アナタ アナタハ ワタシ」


と言ったくだりを聞くと、おじいさんとおばあさんは顔を見合わせ、さらに複雑な表情になった。

「倫子ちゃん。これから神殿に行こう。」

おじいさんが立ち上がりながら言う。

「でも。倫太郎がいないのに連れて行くんですか。」

おばあさんがつぶやく。

「仕方がなかろう。緊急事態だ。」

おばあさんは納得できないようだったけれど、行くことに決まったようだ。

「着られそうな服はあるかい?」

一恵さんが慌ただしく部屋を出て行った。背丈に合う者を選びに行ったのだろう。


神殿?


倫太郎君と行く約束になっている神殿へ?今日?


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