第28話 私は出会う・・・


 次の日、


 ・・・倫太郎君のお父さんとお母さんは休暇が終わるからと帰って行った。また東国に行く前に、中都国の首都へ寄るそうだ。多分昨日の神殿での出来事を報告するためだろう。




「次は冬の休暇に会いましょうね。」


お母さんはそう言ってから、私の耳に口を寄せて言った。 


「倫太郎をよろしくね。

 倫太郎はちょっと子どもらしくないところがあって気になっていたけれど。倫子ちゃんと一緒にいると、小さい子どもになったみたいに見えるの。」


 お母さんはにこにこしながらそう言って帰って行った。


 別荘が少し寂しくなった。


 その後、私はいつものように倫太郎君と勉強をした。 

 勉強の後、いつもよくやる覚醒のための訓練の一つに、カードを使ったものがある。


 3枚のカードをじっと見てそのカートのパターンを覚える・・・実はこのカードのパターンというのが分からない・・・その後シャッフルさせたカードを裏返しておき、どのカードかパターンを読み取る・・というもの。


 倫太郎君は3枚くらいなら,こともなくすぐ当てることが出来る。


 覚えれば、何枚でも大丈夫だよ。100枚でも、1000枚でも。と言っている。


 でも・・私の場合・・・・偶然当たることは多いのだけれど・・・。

 そうすると倫太郎君はやったね。と喜んでくれるけれど・・正直、偶々当たっただけだ。読み取れたわけじゃない。

 1枚のカードのパターンを読んで、10枚くらいの中に入れて当てるという訓練だと偶々当たると言うことも滅多にない。


 倫太郎君のおばあさんが、私に毎日飲みなさいと言って薬の瓶を渡してきたのは、神殿から帰ってすぐだった。

 私が来てからずっと調合実験していたらしい。ようやく完成したので休暇中に服用してもらおうと思って持ってきたという。

 毎日忘れず、朝に1錠。

 この薬は私の記憶を保ったまま、でも私の始原の光の記憶を呼び覚ますための補助剤・・・と言っていた。始原の光の記憶って何だ?疑問を言うと、呼び覚まされれば分かるだろうと言うばかりだった。

 倫太郎君に確かめると、多分詳しいことは誰にも分かっていないんだろうと言う。

全然安心できない情報だ。でも、倫太郎君は続けて言った。

「始原の光の記憶が呼び覚まされれば、天の力の覚醒もすぐだろう。

 正直なところ・・・倫子ちゃんは僕たちにも計り知れないほどの可能性を持っているんだ。」


 薬に関しては、倫太郎君も、他の皆さんも、おばあさんの研究に間違いないって思っているみたいだ。


 倫太郎君は、


「薬を飲んでまで覚醒させなくてもいい。自然に覚醒するまで待てるから飲まなくてもいいよ」

って言ったけど、本当は覚醒して欲しいんだろうな。


 でも・・・薬って・・・やばそうに思うのは私だけか?

 「試しに1週間だけ飲んでみてね。」 

 おばあさんはこともなげにそう言うけれど。

 「もしや人体実験ですか?」

 と言いたい気分になるのも私だけか?


そんなわけで,・・・薬の成果を見るためにも、訓練に力が入る。


 ・・・薬を飲み始めて3日目。


カードから揺らめくものが見えた。


 見間違いかと思って目をこらす。


 別のカードでも試してみる。


 やはり何かが揺らめいて立ち上っているのが見える。


 これがパターンなんだろうか。2枚のカードの揺らめきは違って見える。

 私の様子から、倫太郎君が聞いてくる。

「どうしたの?」

「何か揺らめくものが見えるの。」

「人によって認識されるものは違うんだ。」

「そう言っていたね。じゃあこれが私に『見えるもの』なのかなぁ・・あんまりはっきりしないんだけど・・・」


目が疲れたので、ちょっと休憩をする。

目じゃなく心で見るんだよ・・・倫太郎君は言うけれど・・


 お茶を飲みながら、倫太郎君がぽつりと言う。

「僕はまた出かけなきゃならなくなったんだ。」

 一緒に行ければいいんだけど・・・ちょっと寂しそうに倫太郎君がつぶやく。

「1週間くらい出かけて・・・ちょうど夏休みが終わる頃に帰ってくるよ。」

それから私の手を取って目を見つめて言った。

「でも,、きっとこれがきっかけで倫子ちゃんの力は目覚めるよ。

   今、一緒にいるだけで僕の力も・・・」


 ・・・?

「倫子ちゃんはとりあえず、僕と一緒に別荘を出て,・・・僕は中央へ。倫子ちゃんは家に帰って勉強の続きをしていてね。

 お願いだから勝手に家から出て遊びに行かないで欲しいんだ。広川さん達が来ても。井部先輩が来ても・・・他のクラスメイトの誰が来ても・・・」


なんか切なそうに言うから、私はうん・・・としか言えなかった。

もしかしたら、私が私でなくなる日が近いってことなのかな・・そんなのは嫌だ・・・





私だけ先に家に帰ってきた。


 少しパターンが見えるようになっている私は、とにかくむきになって訓練を続けた。

 おじいさんも毎日のように家に来て、訓練と学習につきあってくれる。

 でも、なかなか成果は上がらない。

 申し訳なくて、悔しくて、布団の中で涙することもしばしばだ。


 なんかどんどん落ち込んでいくように見えたのか、おじいさんが気晴らしにと朝早く南側の菜の花畑に連れて行ってくれた。


 こっちの世界では1年中咲いているという金色の菜の花。


 懐かしいような、泣きたいような・・・でも金色の菜の花を見ていると、なんだか元気になれそうだ。




 ミツケタ・・・ミツケタ




・・・・




 ・・・夏休みは終わり、明日からまた学園に行くことになる。そんな夜のことだった。




寝ている私の部屋の窓がコンコンとたたかれている。


 半分眠りながら私はあぁ誰か来ていると思う。


窓が開く。鍵は掛けたよね・・・まだ暑いから・・開けっ放しだったっけ?!



はっとして起き上がり、窓辺に行く。


 何?何?何?




 目をこする。


 目をぱちぱちさせる。




 そこには・・・金色の光があった。

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