第22話 私は休んでいる

気がついたら自分の部屋だった。きょろきょろしていたら、心配そうに一恵さんが私をのぞき込んできた。体が重い。

「倫子様?」

「あれ?ここ?」

「ああ。よかった。気がつかれたんですね。」

「私、学校で・・」

ゴホゴホと咳が出る。喉が渇いている。

「気がつかれたばかりですから、・・・お水をお飲みください。」

枕元から水差しをとり、一恵さんが私を少し起こして吸い口を唇に持ってきてくれた。少しレモンの香りがする水が喉を潤していく。

それからもう一度布団に私を寝せてくれながら、

「すぐ先生と大旦那様をお呼びします。まだ横になっていてくださいね。」

といった。

大旦那様?・・ああ。おじいさんのことだ。 

一恵さんが慌ただしく脇にあった端末で誰かを呼び出して話し始めた。

ここは家なんだ。それからはっとする。


足!!私の足!!動こうとしてうまく動けないことに気がついた。


私の左足がルグルに巻かれて・・・あ。ギブスだ。右足もギブス。こちらは左より小さいというか、少ない。

そうだ。首!!首に手を当てると包帯が巻いてあった。鎖を引きちぎられたとき首にも傷がついていた。かなり太い鎖だったのに。あれを引きちぎるなんて。女の子にできることなんだろうか?下手したら、首がもげていたかも・・ぞっとした。


指輪。どこ?

枕元のボードを見る。

「指輪ですか?」

一恵さんが私が首に手を当ててキョロキョロしているのに気がついて聞いてきた。

「ええ。鎖ごと引きちぎられちゃったんです。」

痛ましそうに私を見ながら、

「ここにあります。」

と、枕元から指輪の入ったケースを開けて見せてくれた。

「少しゆがんでいたんですが、すぐ直してもらえました。」

よかった。もし壊れたり、なくなってたりしていたら、倫太郎君に悪いからね。

指輪のありかにほっとした私は、今度は足に気を取られ始めた。何しろ両足にギブスだ。一体どうやって移動したらよいのだろう・・・

私が足に気を取られているうちに、一恵さんの知らせでじきにおじいさんがやってきた。ずっと家にいて私を気遣ってくださっていたらしい。


「倫子ちゃん!!ああ。気がついてくれた。よかった。」


・・・ん?

 あの後どうなったか分からないけれど、井部先輩が知らせてくれたのかな。


おじいさんは椅子にへなへなと座り込んだ。

「気がついてくれてよかった。一時はどうなるかと・・・本当によかった。」

繰り返し繰り返しよかったって言ってくれる。うれしいような、面はゆいような・・。しばらく繰り返したおじいさんがようやく落ち着いたので、

「私、どうなったんですか?」

と聞いてみることにした。


 おじいさんの話で、あのあと、井部先輩があちこち連絡をしてくれたそうだ。やっぱり。


 広川さんも駆けつけてくれたとか。




 足はなんと両足とも見事に折れていて、しばらくギブス生活らしい。左は複雑骨折。右は単純骨折だという。両足骨折には驚いた。


 でも、足の骨折だけなのに、保健室でも、医療機関でも私が目覚めなかったので、首の傷が原因か、もしくは頭を打ったのではないかとみんなかなり心配したようだ。


 1泊して検査もたくさんしたらしいが、全く気がつかなかった。

 今は・・・痛み止めが効いているのか違和感はするけれど、そんなに痛くない・・・ような気がする。




「なんで倫太郎様に助けを求めなかったんですか?」


 一恵さんが言う。何のことだろう。


「???」


「リングですよ。握って倫太郎様を呼べばすぐ助けてくれましたのに。」


「だって。倫太郎君は今、お仕事でいないじゃないの。」


「・・・それでもだ。倫太郎の力は倫子ちゃんを守ったはずだ。」




・・・手を取られていたし。指輪をむしり取られちゃったし、握る暇なんてなかった。そう言ったら、一恵さんとおじいさんは深くため息をついた。




「指輪はネックレスじゃなく、指にはめさせておくべきだったな。」


「こんなに派手なのに。普段学園にはめていくことはできませんよ。」


 私が指輪を見せると、おじいさんは渋い顔をした。


「いつも指にはめられるよう、もっとシンプルなやつを倫太郎に用意させよう。」


・・・いや。いりません。1つで十分。




・・・




 ・・・話しているうちに、昨日とか今日とか・・どうも話が食い違うので確認したら、なんとあれから2日過ぎていたそうだ。道理で・・・おなかがすいているはずだ。そう言うと、




「お食事をお持ちしますね。」


 一恵さんが部屋から出て行った。




「あの3人は停学・・1ヶ月。


 多分、外聞が悪いから、退学してよその学園に行くだろうさ。


 よその学園が受け入れるかどうかは・・・疑問だがな。


学園どころではないかもしれないし。


 裁判になるだろうからな。」




「裁判?」


 ・・・・・・・




「おじいさん。私・・・あの人達が何をしたかったのか、私にはさっぱり分からないんですが。」


・・・嫉妬とも違うような。




 そう言うと、おじいさんはこう返してきた。


「あまりにあの3人が倫太郎に絡むので、以前調査をさせてことがある。


 あの3人の家は、深く華国と結びついているらしい。




 藤井の家は、祖父母の代に華国から移住してきたようだし,


 吉井の家は、華国との貿易で富を築いてきた。


 清水の家は、吉井家の事業に深く関わっている。」




「それと倫太郎君は、何の関わりがあると言うんです?」


「日の本連合だけでなく、よその国も倫太郎の力が欲しいんだよ。」


「力って?予言の力ですか?」


「いや・・・・。」


おじいさんは言いよどんだ。倫太郎君の力は、予言だけではないようだ。何だろう・・




「さあさ、お昼ですよ。」


 一恵さんがワゴンを運んできた。それと一緒に入ってきたのは


「倫子ちゃん!!」


 倫太郎君。その顔は、紙のように白かった。


・・・倫太郎君は私をかき抱くようにしていった。

「よかった。目が覚めたんだね。」

そういう肩は震えていた。私は両手を倫太郎君に回した。小さい子を落ち着かせたときのように背中をトントンとたたく・・・


・・・・

「倫太郎君・・心配掛けてごめんなさい。」

しばらく私を腕の中に閉じ込めていたけれど、ようやく顔を上げて、

「全く・・肝を冷やしたよ。」 

とつぶやくように言った。


 ギブスのはまった私の両足を見ながら、倫太郎君は顔をしかめた。徐々に顔に色が戻ってくる。

「心配したよ。目を覚まさないなんて聞いて・・・・たった今、目が覚めたって・・ぼくは・・・ぼくは・・・」

「心配かけてごめんね。」

「いや。君さえ無事ならいいんだ。目が覚めなかったらどうしようかと・・・」


・・・くうぅ・・・私のお腹が鳴った・・


「ごめん。これからご飯なんだね。邪魔はしないから。まず食べて。食べて早く治さなくちゃね。」


「倫太郎。食べるのを見ていたら、倫子ちゃんが食べにくいから、少しでていよう。」

 おじいさんに言われて、倫太郎君は頷いた。そして、私がご飯を食べるあいだ、おじいさんと二人で話をすると言って部屋を出ていった。多分、怪我とかのもっと詳しい話をするんだろうな。


 お昼はおかゆに梅干し、簡単な香の物だった。聞いたら2日間何も食べていないから、消化のよい病人食がいいだろうと言うことになったらしい。おかゆじゃおなかの減りは収まらないけれど。


・・・


 私はここにいてもいいのかな。


 私がいることで倫太郎君達が困ることってないのかな。


・・またこんなことが起きたら足手まといだよね。




急に食欲が落ちてきた。

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