第20話 私は先輩と出会った

倫太郎君のいない日が続く。


お姉様方お昼とか、いろいろな面でフォローしてくださるので、一人で困ることはない。


ありがたいことだ。






 この日の昼休み、図書館にどうしても行きたかった私は、お姉様方とは別行動をしていた。


 めあての本を探して書棚の間を歩く。背が足りないので、上の方にある本の背表紙を読むのはなかなか難しい。


 ようやく見つけた本は結構上の段にあった。周りを見ても取って欲しいと頼めるような知り合いはいない。仕方がない。いすを踏み台にして背伸びしてとろうとする。


 と・・・横から手が伸びてきて、私のとろうとした本を抜いていく。


「あっ、その本!」


 慌てたために、バランスを崩して落ちそうになったところを、支えてくれたのも本を抜いた人だった。

「あ・・・ありがとうございます。」

・・・

「危ないよ。はい。この本もどうぞ。」


 すてきな声。この声は・・・


「もしかしたら・・入学式の時、補助してくださったお兄さん?」

本を受け取りながら聞くと、

「おや、よく分かったね。」

と、返された。

「あのときはありがとうございました。」

ぺこりと頭を下げる。

 くくくっと笑う声がする。下げていた頭を上げると、濃紺の髪のちょっときつそうな空色の目をした少年が立っていた。




「君は若槻倫子ちゃんだね。城山倫太郎君の許嫁の。」


 ドキッ。人から許嫁と言われるのは初めてだ。なんとリアクションしたものか・・・みるみる顔に血が上っていくのが分かった。なんで赤くなっちゃうのかな。


 この年になるまで恋人の一人や二人・・・いたっけ?


「すみません。私、あなたが誰なのか知らないのですが。」

照れもあって、少しきつい物言いになってしまった。

「あぁ本当に噂通りだね。この前俺もそう思ったけど。しゃべり方が硬い。小さな子なんだから、そんなに大人びたしゃべり方しなくてもいいんじゃないか。」


 そんなことを言ったって。中身は60才なんだから・・・と思いつつ反省もする。


 ついつい・・高圧的かもしれない話し方とか、教えるような話方とか、丁寧に話すとかは・・・仕方がないカモしれない。じつは、敬語がうまく使えないのも・・・小学生の子ども達とばかり話していたせいもあるかも・・・・

思考を振り払って失礼にならない言葉を探す・・・

「・・・お名前を教えてくださいませんか。」

「井部 鼓太郎だよ。」

ニコニコしながら教えてくれた。

「井部先輩?」

ん?という顔をされた。

「おや。反応が薄いね。」

なにかしら?


・・・


 井部ってどこかで聞いたことがある。


 首をひねって考えていたら、井部先輩が


 「俺の親父は連合国元首だよ。」


と言うので、


 「あぁ、それで聞き覚えがあったんだ。」


 と返したら妙な顔をされた。なにかな?




 そこへ、いつまでも戻ってこない私を心配した広川さんと英田さん、山名さんがやってきた。


「リンちゃん、遅いわよ。次は歴史だから急がないと。」


「東野先生が今日は多目的ホールでDVD鑑賞をすると言っていたでしょ。」


「井部先輩、お話のところすみませんが。そういうわけで、リンちゃんを回収させてくださいね。」




 ありがとう。お姉様方。


 井部先輩は私に何か言いたかったのかな。気になるけれど、関わると面倒なことになりそうな気がするから。




 歴史のDVDはおもしろかった。つい最近あった大きな戦争の話とか、この世界の成り立ちとか1つ1つが短くてわかりやすかった。うん。見て良かった。




 最後に先生が言っていたことが気になった。

今、日の本連合の外の国・・・外つ国(とつくに)と言うそうだが、かの国々の中で、始原の光(資源のヒカリって一体何なのか・・・未だによく分からないことが悲しい。)が不足してきているんだそうだ。それで日の本連合国内の始原の光を我が物にしようとして動きはじめているらしい。それって・・・




 始原のカケラも始原の光も天の力のもの・・・倫太郎君がお仕事で行っているのもこれが関係あるのかな。


 そう思って広川さんに聞いたら、よく分からないけれど、そう言われればそうなのかもしれないと言う曖昧な答えが返ってきた。本当に知らないらしい。




 もしかしたらさっきの井部先輩はその話をしたかったのかな。


・・・もしそうだったら聞きたかったかも・・・

そんなことを考えていたら、また倫太郎君に会いたくなってきた。早く帰ってこないかしら・・・










 その日の帰り、本当に久しぶりにあの3人が絡んできた。


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