第19話 願い

昼間寝てしまったので、夜は眠れないかと身構える。一恵さんの蜂蜜入りホットミルク・・・冬にはいいんだろうけれど夏に近い今はちょっと・・・いえないけれど・・・・・言えないけれど・・・・美味しい。




 「おやすみなさい。」


 眠れないって言えないから、静かにベッドに横になる。一恵さんがお休みなさいと言って電気を消して・・部屋を出る気配がする。




 私はこのままでいいのかな。


 倫太郎君とおじいさんは私に何を望んでいるんだろう。


 天ってなに?


 解りたいけれど知らないままの方がいいような気もする。


 今日も蝶が目の前を飛んでいる。この前の蝶と違うみたい。少し銀色がかっているように見える。・・・私に何を言いたいの?




 倫太郎君。会いたいなぁ・・・


 いつの間にか眠ったらしく、気がついたら朝だった。ちゃんと眠れたみたい。




朝食も一人だと味気ない。もう何年も一人の食卓だったのに。慣れって怖いかもしれない。ここにいられなくなったら暮らしていけるんだろうか。




 倫太郎君がいない日が続く。




 いつの間にかもう2週間過ぎていた。




 火曜日の学園は・・そうだった。体育があるんだった。




 4時間目の薬草学の時間は実験だった。制服の上から白衣を着て緑の草をすりつぶす。小さい白衣はかわいいと周りのお姉様方からは好評だ。


 あっという間にあちらこちらに緑のシミが飛び散ってしまうのもご愛敬。




 例の3人のお姉様方は最近ちょっかいを出してこなくなってきた。私の周りに広川さん達3人のお姉様方がいつもいるようになったからか。ありがたいことだ。いちいち対応するのも疲れてしまうから。




お昼。最近はいつも広川さんと山名さんが中庭で一緒に食べてくれる。


 食べていたら、他にも何人かのお姉様方もやってきて、わいわいと楽しく食べることが出来た。おやつに持たされた結構たくさんのクッキーも、お姉様方が手を伸ばしてきて、あっという間になくなった。たくさんありすぎて残したらどうしようと思っていたのでありがたかった。


 もしかしたら、倫太郎君がいないから、お姉様方と食べるって思ってたくさん入れてくれたのかな。コックさんにお礼を言わなくちゃね。




そこでいろんな話を聞いた。山名さんが冬彌君とおつきあいを始めたってことも初めて聞いた。知らなかった。冬彌君ってやたら倫太郎君にからんでくる子だよね。へぇ山名さんとおつきあい始めたのか。山名さん、すごくうれしそう。






 体育はいろいろな用途に使われているらしい体育館で、ダンスだった。




 グループごとにテーマを決めて踊るらしい。


 先生の説明を聞き、基本の動きをいくつか学習した後、グループに分かれた。


 さっきのお姉様方が、私を呼んでくれたのでありがたかった。


 「リンちゃんは何が得意なの?」


 「結構なんでも出来ます。(この体で試してないけど・・・)多分バク転とかも。やろと思えば。」


 「小さいのに、結構なんでも出来るのね。」


 「体操とか、ダンスとか,習っていらっしゃるの?」

「ええ・・・ここに来る前に少し・・・」

・・嘘は言っていない。最近のことでないだけだ。




くじでグループのテーマを決めるそうなので、広川さんが引きに行った。


 「うわ~」


 と言いながら戻ってくる。




 冬から春へ


 春から夏へ


 夏から秋へ


 秋から冬へ


 テーマはこの4つで、このグループのテーマは「秋から冬へ」だそうだ。




 躍動から静寂へ?


 落ち葉と朽ち木?


 みんなでわいわい話し合う。向こうのグループは早くも動きの練習を始めている。


 秋から冬へって難しい。植物?天気?人?動物?


 この日はそれだけで時間切れになってしまった。練習は後2時間。3時間目は発表だそうだ。曲はあってもなくてもいいらしい。ちょっと楽しみ。




 こんな風に真剣に考えたり、楽しく体を動かしたり・・なによりこんな体でも仲間扱いしてもらえるってうれしい。












・・・・倫太郎・・・・




 急に政府に呼び出されて早4日。今回はなかなか帰れない。この日の本連合に対する外つ国(とつくに)からの圧力のせいだ。なんて勝手な国々だ。




 僕が示すのは未来のカケラだ。けっして固定された未来ではない。僕の示す未来のカケラが実現するか否かはその政府の方向にかかっているというのに。


 不確かな未来・・・。そう。確かな未来などあるものか。僕は平和で優しい未来への道を示すだけだ。それを実現させるための方策を示すだけだ。


・・・僕の祈りがヒカリとなって世界中に満ちれば・・・いや。それにはまだ・・




 華国(かこく)や汎国(はんこく)が我々の言葉を飲んでくれればいいのだが。


 まずあの国々は情報操作が激しいうえに、思い込みも激しいから。・・・いつになったら日の本連合の言葉があの国々の人の心に届くんだろうか。




 平和で誰もが笑っている穏やかで優しい国々。国同士の諍いも憂いもすべて凌駕する・・・そんな未来は本当に来るのか。いや必ず。来るはずだ。僕の・・・








 倫子ちゃん。無理していなければいいが。


体育はダンスだって聞いているから、この前みたいなことはない・・・はずだと思いたい。


 そういえば一昨日、蝶を飛ばしたら倫子ちゃんの手の中に消えてしまった。何だったんだろう。




 昨日は倫子ちゃんが保健室で寝ていたって聞いた。


 どうしたんだろう。


雑念ばっかりだ。これではいけない。




 「では、この方法をとっていくことにします。城山様、ご協力ありがとうございました。」


「こちらこそ。話を聞いてくださってありがとうございました。」




 やっと帰ることが出来そうだ。


 「城山君。」


 「はい。」


 なんと言うことだ。連合国元首、井部五郎氏だ。


 「少し時間をくれないか。」


 「はい。」

嫌とは言えないよ。分かっている癖に・・・


「さっきの外相の話だが、どうも表情を見ていると・・・」

「ええ、彼は嘘をついていましたね。」

「それを詳しく・・・」


 




これでまた帰れなくなりそうだ。




結局僕は、さっきの方策とは別に、近未来の華国と汎国の悪い方への動向を占うことになった。 


 あれらの国の動向は、もう占う必要もないくらいはっきりしている。元首も分かっているくせに。悪い方には3つに分岐する。外相の嘘に惑わされなければ・・・




 一つは2国がばらばらに今までのような無茶ぶりをしてくる。これは対応がいちいち面倒だ。


 もう一つは、2国が同盟を結び(1国ずつでもやりそうな気もするが・・・)他の国々をも巻き込んで我が連合に経済的打撃を与えるために動き始める。他の国々に根回しは必要だろう。


最後は2国が我が連合に宣戦布告をする。これが困る。戦争は避けたいものだ。




回避の方法もきっちり元首と各国の首相の5人とで考える。僕の仕事はこちらの方がメインだ。


 僕の天の力で何とか出来ないかと考えていることがありありと分かる。でも、この力・・・・僕一人では・・・




僕は願う。世界中の人達の幸せを。


僕は願う。すべての人がすばらしい夢を見られるような世界を。


すべての人たちがわかり合おうと努力できるように・・・僕は働きかけていきたい。




・・・




 気がつけばもう日付が変わっていた。今日もこちらで泊まりだ。明日こそ帰る。倫子ちゃんのもとへ。




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