第13話 私は困惑している
「帰ろうか。」
HRが終わってぼんやりしていると、倫太郎君が声をかけてきた。
「うん。」
いすから降りようとする前に,倫太郎君が抱き下ろしてくれる。
手をつないで歩きながら、
「ウチノ カンケイってなに?」
疑問を聞くと、倫太郎君はこともなげに
「許嫁のことだよ。」
と教えてくれる。
あんまりさらりと言うから、スルーしそうになって・・
「ふ~ん。って、えぇっ!!!
ちょっと、いつの間にそういうことになっているの?」
倫太郎君は立ち止まってしゃがみ込み、私に目線を合わせて・・
「倫子ちゃんがあの指輪をはめたときからだよ。」
・・・・
倫太郎君はにっこり笑って立ち上がり、私の手を取ったまま、また歩き出す・・
「そんなの初耳ですけど。」
待っていた車に乗り込みながら私が言うと、倫太郎君は悲しそうに私をみた。
「嫌なの?」
・・・・・何、その叱られちゃったよ、みたいな顔は・・・
「僕はずっと待っていたんだ。
時には倫子ちゃんが誰かと結婚するんじゃないかと思って・・・
こっそり泣いたりもしたんだよ。
やっと・・・やっと一緒に過ごせるようになったから。」
・・・・・
「それにしても、本人の了解を取らないで言っちゃだめでしょう?」
「そうだったね・・・それは謝るよ。でも・・・嫌じゃないよね。」
な・・・私の昔の淡い気持ち・・・
「い・・嫌じゃない。」
「だったら、これで許嫁決定だね。」
満面の笑みで私の両手を握りしめる。
「待って。ご両親やおじいさん、おばあさんはどう思っていらっしゃるの?」
これ大事だからね。
「否やもないよ。
第一、倫子ちゃんをこちらに呼び寄せるお手伝いをしてくれたのは、祖父母だよ。
学園に通えるように手配してくれたのも。
両親は言わずもがなだし。
僕の命を救ってくれた人を拒むものはいないよ。」
車を降りてエントランスホールに入りながら倫太郎君が言う。
なんですって?
「ちょっと待って、私、倫太郎君の命を助けたなんて記憶にないわよ。」
「着替えて昼食をとりながら話の続きをしよう。」
倫太郎君はそう言って部屋に行ってしまった。
私も制服を脱ぎ、楽なワンピースに着替える。
倫太郎君の言っていることが分からない。
モスグリーンのワンピース。ちょっと重く感じられる。
今の気分にぴったりかも。
今日の昼食は、クリームコロッケだった。
ナイフを入れるととろ~りとクリームがこぼれる。
具だくさんのスープに軽いパン。鶏肉のサラダにミートパイ。
私の量はいつも通り倫太郎君の半分。
これでも最後にデザートが出てくる頃はおなかがいっぱいで食べられなくなってしまうこともしばしばだ。
今日のデザートは私の好きなプリンだから絶対食べてやる。
そう。私はプリン好き。しょっちゅうどこかしらのケーキ屋さんでプリンを買ってきていた。
食事しながら、倫太郎君の「命」を救った発言を確認していく。
あの倒れたときの迅速な対応はともかく、毎日お遊びの中で私がそばにいる日は体調がぐんと良くなったのだそうだ。
「菜の花のエキスもそうだけど、倫子ちゃんがそばにいることで僕の守護言霊が落ち着いたみたいなんだ。」
「守護言霊?」
また初めて聞く言葉だ。
「うん。僕を守護する言霊。ただの言葉じゃないんだ。
僕の存在自身存在意義とでも言うんだろうか。」
「?」
「普通、守護言霊は・・ただあるだけで・・・守護する生命を見守ってくれる。ただそれだけの存在だ。」
「守護霊みたいなもの?」
う~ん。
倫太郎君はサラダをすくう手を止めて、私に分かる言葉を探しているようだった。
「近いのは精霊とか。聖霊とか言う言葉なのかなぁ。
でもちょっと違うような気も・・・
守護霊って言っても・・・ぴったりにならないのかもしれないね・・・」
倫太郎君はサラダをぱくりと食べる。
「で、こちらの世界で、僕に付いてくれた言霊は弱く・・消えかかってしまっていたんだ。言霊が消えかかると、当然守護してもらっている命も弱ってくるんだ。」
倫太郎君は私をしっかり見据えていった。
「だから,君の世界に行ったんだ。こちらの世界になくても、そちらの世界に行けば、ぼくを救う手立てが見つかるかもしれないって。
そちらの世界でいろいろな場所に行き、いろいろな薬を試したり、いろいろな食材を食べたりしたんだけど・・・・
君の住む町にたどり着いて菜の花のおひたしを食べたとき、なんだか違ったんだ・・・今までとね。同じおひたしをよその町で食べても変化がなかったのにだよ。
ここでしばらく食材を研究するっておばあさんが言って・・・あそこに住むことになったんだけど。代わり映えのしない日々が続く中、ある日を境にすごく楽になってきたんだ。」
それが私と会って、一緒に遊び始めた頃だったそうだ。
そういえば・・・最初は原っぱの中のクローバーがあるところで花冠を作ったり、四つ葉のクローバーを探したり、草相撲したりしてじっとしていることが多かった。あんまり体が丈夫じゃないんだって言っていたような・・・
それからだんだん追いかけっこをしたり、少し遠出をして小川に行ったりするようになっていったんだっけ。
日に日に元気になる倫太郎の様子に、おばあさんが不思議に思って、私を家に連れてくるようにと言ってくれたそうだ。
それであのお茶か・・・
洋館のテラス。白いテーブル、白いいす。素敵なお茶のセット。
不思議な優しい味の・・今思えば、ハーブティ。そして美味しいケーキ。
おばあさんはにこにこして私たちを見ていたっけ。おじいさんもやってきて和やかな春の日だった。
「おじいさんとおばあさんの見立てでは、君は何か強力な力を秘めていて、それが僕に作用しているとのことだった。
できるだけ君のそばにいるようにとも言われたけれど。」
それから私の方を慌てて見た。
「勘違いしないでね。そばにいたのは言われたからじゃない。
その前から、君のことが大好きだったんだ。本当に君のそばは居心地が良くて・・君が帰ってしまうと悲しくてね。」
ゆっくり食後のお茶を飲みながら倫太郎君はさらに言う。
「君のおかげで、僕の守護言霊は僕と同化したんだ。こんなことはまずないことなんだが。
守護言霊はすでに・・・僕の魂の一部と言ってもいいかもしれない。
・・この魂がね。君のそばにいることを望み、選んだんだ。
つまり・・・僕の本質がね・・・・。」
お茶のカップをコトンと置いて倫太郎君は続ける。
「君がそばにいると、死にかかっていた僕は生き返る。
君がそばにいると、僕の魂は無敵になる。
そういうこと。
死にかかっていた僕は君に救われて、さらに魂に強力な力を得たんだよ。」
・・なにもしていないのに?
疑問が顔に出ているのだろう。倫太郎君は私の頭にそっと手をのせて
「君の中にも守りの言霊は入っている。
それは信頼と言ってもいい。光と言ってもいい。
これから学生生活をしている内に覚醒するはずだ。
だから僕は君のそばにいて見守りたい。
前にも言ったね。
僕は本当は大学園を薦められている。
でも、君がいるから高学園で学ぶんだ。君のそばにいるために。」
・・・重い・重いよ。美味しいプリンの味も分からなくなる。おばちゃんにこの話はきついよ。倫太郎君。
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