第10話 私は箱を開けている
こうして日々は過ぎていく。気がつけばもう4月10日になっていた。
「明日は高学園の入学式ですよ。」
一恵さんが朝の支度を手伝ってくれながら行ってきたのでびっくりした。
「え?」
もうこの世界に来て2週間以上すぎたのか。正確に言えば17日。濃い毎日なのでそんなにたっていたとは気がつかなかった。
・・・入学式。何かこそばゆい。今まで35年間も入学式の準備をしてきた身で今更・・・入学式。
いずれにしろ・・・この外見では教師をするわけにもいかないから・・・新しい生を楽しもう。そう考えるようになっている。前向きでいいぞ。私。
この1週間くらい、倫太郎君と会っていなかった。
「仕事に行ってくる。」
そう言って出かけたのだけれど。
今日の午前中は、制服の確認と持ち物の確認をすると言っていた。
採寸したとき、自分の身長を聞いて改めて驚いた。
117㎝・・・40㎝どこへ行った?!
ようやく鏡の中にある自分の顔がはっきり見えるようになった。
昔の自分に似ているようで少し違うその顔は、なかなか見慣れない。確かに黒かった瞳がどうも濃い紫色のように見える。
気のせいか鼻も少し高くなったようで・・・うん・・・恥ずかしいけど、かわいいと言って良いかもしれない。
この前倫太郎君にそう言ったら、倫子ちゃんは前もかわいかったよ!!なんて赤面もののことを言ってくれた。
・・・子どもたちから鬼婆呼ばわりをされたこともある私に・・アリガトウ・・・・
そんなことを考えながら倫太郎君の顔を思い浮かべる。倫太郎君の瞳もそういえば濃い紫色だった。一恵さんは濃い茶色に見える。この世界の人の瞳は日本人と少し違うようだった。
朝食の後、部屋に戻るとたくさんの箱が積み上げられていた。
「制服が届いたんですよ。」
一恵さんがそう言って箱を開け始める。制服の箱って言っても多すぎないか。
「制服も1年で4回替えるんですよ。」
替えすぎだろう。
4~5月春服
6~7月夏服
10~11月秋服
12~3月冬服
う~ん。
「1年後,大きくなっていたら ?」
「買い換えですよ。」
こともなげに言うし。
春服は空色だった。あんまり見ないようなスカイブルー。
白い襟に大きな臙脂のリボン。
スカートは膝より少し短めのプリーツだった。それに白いハイソックスをはくらしい。
夏服は薄い水色。半袖の涼しげな襟元に臙脂のリボンが刺繍されている。
スカートも上と同色で少し濃いめの色のプリーツだ。
「夏はリボンでは暑いですからね。」
一恵さんが言う。だからつい、
「その時期になったら作るってのはだめなの?
大きくなっちゃうかもしれないでしょう?」
と聞いたら、
「なかなか作る暇もないくらい忙しくなるんじゃないか、と思ってですよ。」
と言う答えが返ってきた。
そのまま秋の制服も見る。
濃い茶色の制服に白いブラウス、臙脂のリボン。上着と同色のプリーツスカート。
冬は?
冬の制服は襟元がもこもこしたファーだった。
生地もしっかりとした濃紺のウールでスカートは膝丈のキュロットになっていた。
「寒いですのでキュロットでおしりを守るんですよ。」
黒い厚手のタイツもついている。すごい。
よく見ると制服はどれも3枚ずつあった。
3枚もいらないだろう。そう言うと、洗い替えや、不意の汚れに対応するためだという。
「これでも少ないと思いますよ。毎日洗い立ての制服に着替えるお嬢様方も少なくないですからね。」
制服をすべて隣のウォークインクローゼットにしまって箱を片付ける。
まだ箱がたくさん残されている。
「一恵さん、この箱はなあに?」
「開けてみてください。」
小さめの箱を開ける。靴だ。今の私のサイズに合わせた、18㎝の履きやすそうな黒のローファー。
もう一つ開ける。これも靴。スニーカーだ。私の好きな空色のスニーカー。菜の花マーク入り。
さらに開ける。ローファー。今度は紺色だ。
もう一つ靴の箱らしきものを開けると、こちらは淡いピンクのスニーカーだった。桜のマーク付き。ちょっと恥ずかしいかも。ピンク。・・・この体ならかまわないか。
他にもまだ箱がある。
「いったい何をいくつ運び込んできたの?」
その問いに答えるようにドアが開く。
「ただいま。倫子ちゃん。僕の見立てた靴、どう?」
「かわいい靴だね。」
「こっちの箱も開けてよ。これ、多分帽子だよ。」
「私に買い与えすぎじゃないの? 小さい子の甘やかしは子どもをだめにするよ。」
「倫子ちゃんなら大丈夫さ。ちゃんと大人だからね。」
倫太郎君が片目をつぶって言ってくるからちょっとむっとしてしまう。
「そんなこと思っていないくせに。」
そういえば、こちらに来てからめまいを起こさなくなった。そう言うと、こちらに来てもらうためにいろいろやっていたことがめまいの原因だと教えられた。
「完璧じゃないけど、もうこちらに充分定着したから、めまいとかなくなったんだよ。」
と、教えられた。
「定着・・・」
箱の中には体育着など学校関係のものだけでなく、私服やアクセサリー、下着類などたくさんあった。
一つ開けるごとに驚く私を倫太郎君は楽しそうに見ていた。
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