第9話 私は呪術って何か考えている

 午後の先生は優しそうな女の人だった。


「初めまして。」


「私は西山佳乃子です。大学園で呪術を教えています。」


「呪術ですか・・それは一般的な知識ですか?それとも研究で?」

どんなことを教えているんだろう。今すぐにも教えていただけるのについ聞いてしまう。


「失礼しました。呪術をご存じないのですね。」


ここは正直に答える。

「はい。分かりません。」


「呪術は・・・そうですね・・・わかりやすく言えば、祈りの力のことです。」


「祈り?」


「神託として神から授かった言霊を預言とか、啓示として受け止めるための学問です。


 これは、倫太郎君が今代では最も優れていると言われています。」

西山先生は倫太郎君の方を向いて軽く会釈をした。

 そうなんだ?知らなかった。倫太郎君って優秀なんだ・・・



「いや、先生。それは買いかぶりすぎでしょう。僕なんてまだまだですよ。」


「呪術界の寵児が何をおっしゃいますの。


 あなたの預言、提言、全て素晴らしいではありませんか。」




 倫太郎君が困ったような顔で


「今は倫子ちゃんに教えてあげてください。」


 と言うので、昨日の話を思い出す。占い師と言っていたっけ。




「預言と占いって同等なの?」


「似ていますね。でも同じじゃない。


 そのあたりもこれから学習していきましょう。


 言霊の受け取り方も1週間で覚えていただく予定ですので。」


 さらりと言われたけれど、何にも呪術のことなんか知らない私が出来るようになるのかな。 


 その日は言霊についてと、言霊を下ろすことつまり神託について学習した。


 分からなくなって困ると倫太郎君が助け船を出してくれたので、今日のノルマは無事達成できたようだ。




「まとめです。この呪文を唱えて、神託を受けてください。」


 ・・・


「全き者達よ・・我が心に沿い、我が手にこの世をあたえたまえ」


・・・なんか恥ずかしい・・4年生の子が『・・・この手に風を・・・よっしゃ!!!おれつえええええ』とか叫んでいたことを思い出してしまう・・・

・・・・・

・・・・・

あれ。何か頭をかすって通り過ぎた。

私がキョロキョロしているのに先生が聞いてきた。


「何か分かりましたか?」


って・・・分かったというか・・・


「金色の何かが通り過ぎました。」


「それは何でしたか?」


「う~ん。ひらひらという感じでしたので。蝶かもしれません。」


「通り過ぎてどちらに行きましたか?」




「こっちなんですが・・・」

と倫太郎君の方を指すと、

「倫太郎君の方へ行ったのですね。」

うんうんと頷く先生。それから、倫太郎君に話を振った。



「倫太郎君、どう見ますか。解説をしてあげてください。」


「僕にいいことがある。」


「簡単すぎますよ。」


 いやあ・・・と倫太郎くんが盛んに照れる。




「後はお二人で続きをお願いしますね。


 時間ですので。また明日まいりますね。


 失礼いたしますよ。」


「ありがとうございました。」


 軽いお茶の後、また違う先生が現れた。


 今度の先生は細い男の人だ。


「こんにちは。」


「こんにちは、先生。」


「初めまして。私は喜田小次郎と言います。


 私は国語と呪術文の解説を大学園で教えています。


 文字は問題ないみたいなので・・・呪術文解説の方が大きいかもしれませんね。

 

 呪術につきましては、西山先生から詳しく学習していくと思いますが。」




 私に於いては、何のこと?どこのファンタジー?という呪術に加えて、呪術文解説とはますます訳が分からないとしか言いようがない。




 昔講義を受けた教育学概論だのと似たようなものか?


 昔の講義などはっきり言ってほぼ忘れている。国語って文字は同じなのにまだ何かあるんだろうか。




「この国の方ではないと聞いていますので、少し呪術文字を学習しましょう。」




「梵字のようなものですか?」


「梵字?」


 少し顔をしかめて私を見た後、


「いいえ。どちらかというと象形文字に近いかもしれませんね。」


 と言って西山先生は文字の一覧表を出してきた。




「・・・と言うわけで、象形文字を書くことによって私たちの祈りを伝えやすくしているのです。」


「まるで魔法ですね。」


「魔法?


 これは祈りです。


 祈りを具現させるために呪術があり、呪術をより天に届けやすくするための手段

の一つとして呪術文字があります。」




あれ?西山先生から唱えさせられた言霊とやら、呪文とやらはどこに位置するのだろう?




「倫子ちゃん、さっきの呪文について考えていない?」


「よく分かったね。うん。呪文と呪術文字と呪術文、この関係性がいまいち分からなくなってきちゃった。」




「始めに言霊ありきですよ。」


 と西山先生が言う。


「始原の学習はお済みでしょう?午前中に東野教授が来ていたと思いますので。


 あの話の出だしは『始めに言霊ありき』でしたよね。」




 確かに。東野先生の物語のはじめはそうだった。


『始めに言霊ありき。其は光を得て輝けり。輝きの全きに還りうる』


 判じ物みたいだと思った。


 言葉が先にあったら大変だ。言葉が生まれるには、使うものがいなくてはならないだろう。


 なのになぜ言霊が先?


 言霊が輝くって何?


 輝きが還るって暗くなるってこと?


・・・分からない。




 疑問を言うと、先生は続ける。


「世界のどの国に行っても、言霊が先に生じたと言われています。


 言霊は神々と言いますか・・始原のもののカケラとも言われているんですよ。」




 始原のもののカケラ・・・混沌から生まれたとか?


 そう言うと、先生はほうと感心したように頷いた。




「そういう説もあるんですよ。」




「僕もそう思っているよ。」


 静かに話を聞いていた倫太郎君が言う。


「混沌の中からすべてが生じ、真ん中は省略するけれど、最期・・・やがてまた混沌に還る・・と言って良いのではないかとね。」 


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