第5話 私は出かけている

--途中視点が入れ替わりますーーー




朝。今日も晴天だった。




 朝食の後、倫太郎君と街に出かけた。


 家の前には中庭とはまた違う大きな庭があり、その中を車が2台通れるほどの道が続いている。ずいぶん広い。どうも家の周りは全部庭らしい。庭って言うより庭園・・・?




「今日は歩いて街をみる予定だけれど、疲れたら言うんだよ。」




 ようやく門のところに来ると、そこには家が一軒建っていた。


「この家は庭師が住んでいるんだ。家族で住んでいるから、門番の役目もしてくれているんだよ。」


「門番!?」


門番までいる家なんだ!庶民の私には想像つかなかった・・・


 私たちが近づくと門扉が音も無く開いた。




 後ろを振り向くと坂木さんと他に知らない男の人がいる。


 あれ?と思っていると、倫太郎君が


「うん。僕たちの護衛だよ。」


 という。護衛!!!


「護衛って・・」


「怖がらせちゃうかもしれないけど。何かあったときに僕だけじゃ対応できないからね。」


そんなにたいそうな人間じゃないんだけど。ああ、倫太郎君を守るためなんだね。




 ゆっくり今の私の歩調に合わせて歩きながら話をする。


 しばらく道を下っていくと、色とりどりの屋根が見えてきた。


 倫太郎君の家はずいぶん小高いところにあるらしい。




 道の途中に石段があった。


「ここを降りよう。その方が早いからね。」


「落ちないでね。」


 笑いを含んだ声で倫太郎君が言うから、


「倫太郎君こそ落ちないでね。」


 と返す。


 ゆっくり石段を降りていくと、細い路地に入った。そこをさらにゆっくり進むと、甘い香りが鼻をくすぐってきた。


「この香りは。」


「お菓子屋さんの香りだね。」


 路地を抜けるとそこはお菓子屋さんの脇だった。


「帰りに寄ろうね。」


 今は町を見ることの方が先。




 後ろからつかず離れず坂木さん達がついてくる。子どもだから保護者同伴と考えればいいよ。と言われたけれどやはり気になる。60歳なんですけど・・・




 まだ早い時間ではあるのだけれど、けっこうたくさんの人が忙しそうに行き交っている。


向こうにきらきら光る建物が見える。


「あれは何?」


「あそこは神殿だよ。」


「神殿?神社でなくて?」


「あとで行ってみようか。」


キョロキョロしながら進んでいくと、


「倫太郎君」


 と倫太郎君を呼び止める声がした。誰だろう。見るとかわいい女の子が3人立っていた。





・・・・倫太郎・・・・




「倫太郎様」


 呼ばれる声がしてげんなりした。


 この声は百華だ。会いたくないやつに遭遇してしまった。何かと媚びを売ってきて・・・でも僕とよく話す広川さんに嫌みを言っていることを僕は知っている。


 ・・・無視していこうか・・・




「倫太郎君ったら、呼んでいるのに返事くらいしたら?」


 倫子ちゃん。余計なことは言わないで欲しいよ・・・・




「やあ、百華さん。令佳さん、嘉穂さんまでおそろいでどちらまで?」


「私たち、高学園で使う物を見に来たんですの。」


「倫太郎様もご一緒しませんこと?!」


 うれしそうに3人が近づいてきた。




 ・・この子は親戚の子?


 ・・倫太郎さんの親戚にこんな年頃の女の子がいたなんて聞いてませんわ。


 3人の会話が筒抜けだ。どうしたものか・・・




「こんにちは。私たち春から高学園1年の吉井令佳と藤井百華、清水嘉穂です。


 お嬢さんのお名前を教えてくださるかしら。」


「若槻 倫子と申します。どうぞよろしくお願いします。」




 倫子ちゃん。何で律儀に応えるかなあ・・・仕方ないけど・・・


 さらに3人が何か言いかけたので、僕は慌てて倫子ちゃんをさらうように引き寄せ、


「僕たち急いでいるから。またね。」


 と言って歩き出した。 


「ちょっ・・・」


 引き留めようとする声がするが、相手をするつもりはさらさら無い。


「倫太郎君、お友達なんでしょ?いいの?」


「友達なんかじゃないよ。・・・後で話すよ。」




 その足で左側にあった宝石店に飛び込む。


 さすがに宝石店まではついてこないだろう。




「いらっしゃいませ。」


 満面笑顔の店員さんに・・


「いえ・・・」


 倫子ちゃんは困っているようだった。






 ちょうどいい。倫子ちゃんの立ち位置を本人にも教えられる。僕の気持ちも・・・


・・・いや・・・まだ早いかもしれない。


 僕はめまぐるしく考える。




 店員が近づいてきたので、指輪を見せて欲しいというと、店員はにっこり笑って言った。 


「守護リングでよろしいですか?」


「・・・とりあえず、女の子の好みそうな物をいくつか見せてくれませんか」




「こちらへどうぞ」


 若い店員は僕たちを仕切りのかげのソファーに連れて行った。


「倫太郎君?」


 少し不安そうな倫子ちゃんの声がする。ままよ。




「守護リングをプレゼントさせて欲しいんだ。」


「守護リング?」


「ちょっとここでは詳しく話せないけれど。こちらの習慣だよ。」


座りながら倫子ちゃんの疑問に答える。




 しばらく待っていると、店員さんが四角い箱をいくつか重ねて持ってきた。銀ねず色のティッシュボックスを2つくっつけたくらいのはばの箱だ。




 それをテーブルの上に1段ずつ分けて置いていく。・・・5つの箱がテーブルの上に所狭しと置かれると、箱の一つ一つに指輪が横に7~8個ずつ4段に入っているのが見える。一つがきらりと光った。




 僕は見たことがある。この指輪を。倫子ちゃんの華奢きゃしゃな指に。あれは倫子ちゃんの前で倒れたときだ・・・幻のような、でもあんなにはっきり見えたのは・・・未来視だった・・・と思う。

 あのときぼくの力の一つが急に大きくなったんだ。だから体が耐えられず・・ 倒れたのがきっかけか、見えたのがきっかけか・・・







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