第13話 セバスチャンの行方1

 午前中はいつも通り王の部屋に行くとドアを開けて中へ入った。

 

「お早う御座います、陛下。」

 

「おぉ…ローズマリーか、おはよう。」

 

 また名前忘れたの?

 

「やっぱりセバスチャンはいませんか?」

 

 もしかしたら王の執務室に入ればいつも通りいるんじゃないかと期待したが無理だったようだ。

 

「そうなのだ、私も朝起きた時にいるのではと探したのだが。」

 

 朝から元気が無い王はため息をつき手にした資料をめくった。

 

「それは昨日の食料事情の資料ですか?」

 

「そうだ、朝には届けられておった。エドワードは対応が早いな。ところでルーベンはどうしたのだ?」

 

 そう言えばまだ見かけない。

 

「探して参りましょうか?」

 

「いや構わん、そのうち来るであろ。それより今日の予定だが。」

 

 王は昨日のうちに色々な部門に知らせを出し、決まっていた今後の予定表を作らせ持ってくるように命じていたようだ。

 

 朝のうちはそれを整理し、続いてその準備が順調に進んでいるかをチェックする為に私をそれぞれの場所へ向かわせた。

 

 先ずは会合が行われる会場の準備を見に行った。

 

 長机にペン、インク、紙。基本の準備は既に整えられて資料も置かれている。準備をしていた城に仕える使用人に声をかけた。

 

「リック、問題はないかしら?」

 

「ローズマリー様…お召し物が違うので見違えました。」

 

 忘れてた。今日はいつもと違う。どこかで着替えられないかな、なんだか恥ずかしい。

 

「そうね。それより資料の予備はあるかしら?私にも一部もらえない?」

 

 会合に参加するなら少しは勉強しておかないといけないだろう。

 リックに資料をもらい会場のチェックも済んで次に休憩用のお茶の用意を確かめに行った。

 

 厨房にいる料理長のビルを呼び止めた。

 

「ローズマリー様、どうしたのですかその姿は?」

 

「気にしないで、それより会合のお茶の準備は大丈夫?」

 

 なんだか嬉しそうなビルに確認が済み一旦、秘書控室へ向かった。

 

 ドアをノックしてから中へ入ると誰もいなくて昨日片付けたままの状態だった。

 

 中央に一つ机が置かれ、壁には大きな本棚がしつらえてある。

 昨日は床にばら撒かれた紙の資料を確かめただけだったので他の場所はちゃんと見ていない。

 

 本棚には色々な種類の専門書が置かれ、わからない事があればすぐに調べられるようになっている。床に近い部分は引き戸がつけられ中にこれまでの資料が残されていた。

 

 紐で綴られたそれをパラパラと流して見ていた。

 日付や時間、誰が関わり、何を用意し、結果どうなったか。反省点や改善点など事細かく書き込まれたそれを見てセバスチャンがいかに優秀でキチンとした性格なのかがわかる。

 

 だったら何故急にいなくなったのだろう?

 

 過去の資料を片付け振り返って本棚と反対の壁を見た。

 そこには個人用の鍵付きの棚がそれぞれにあり、私物を置けるようになっている。

 

 私物と言っても私の物は殆ど無い。服が汚れた時の為の着替えが置いてあるだけだ。

 

 個人の物だし鍵が付いている為手を付けるのはためらわれるが仕方が無いと自分に言い聞かせた。

 

 窓を開けパフを呼ぶとセバスチャンの棚の鍵を開けるように言った。

 

「できる?」

 

「ポッポ」(もちろん。)

 

 パフを手に乗せ棚の前に行くと鍵に近づけた。

 

 私の中の魔力が少し揺らぎ、カチリと音がした。

 

「ポッポ」(開いたぞ。)

 

「ありがと。」

 

「ポッポ」(ロージーの魔力だ。礼は無用。)

 

 パフは軽く飛び立つと窓辺に止まった。

 

 一応心の中で謝りながら棚の扉を開けた。

 

「変りない…かな?」

 

 中は前にチラリと見た時とあまり変化は無い気がした。着替えと作りかけの資料が少しあるだけだ。念の為に仕切ってある棚の裏側も見たが何もない。

 

 ため息をつき扉を閉めて部屋を出た。

 

 王の執務室へ向かいノックして入る。

 

「只今戻りました、陛下。」

 

 そこには少しも悪びれない遅刻して来たルーベンがいた。

 

「お早う御座います、ルーベン。」

 

「…ローズマリーか?何だその格好は…」

 

 目を見開き口をポカンと開けたルーベンの間抜けな顔を無視すると、王に報告した。

 

「陛下、会合の準備は出来ております。使用する資料ももらって参りましたので目を通しておきます。それと、セバスチャンの事ですが。」

 

「見つかったか!?」

 

「いえ、個人用の棚を調べましたが中に居なくなったことに関して参考になる物はありませんでした。」

 

 私がそう言うと王はゆっくりと椅子の背もたれに寄りかかった。

 

「やはりそうか、これほど探しても誰も何も見ていないと言うのだから何か事件か事故に巻き込まれたという事かもしれぬな。」

 

 優秀な部下がいなくなり、原因もわからず落ち込んだ様子の王に無神経なルーベンが無神経に話しかける。

 

「元々私が王の第一秘書だったのですから心配は無用です。もしかしたらセバスチャンは秘書の仕事が嫌で逃げたのかもしれません。これだから平民の者は困る。」

 

 王はため息をつくとルーベンを鬱陶しそうに見た。

 

「今は大変な人手不足だ。貴族だ平民だと分けていては何もする事は出来ない。

 現にミデガライトのレックス殿は平民だが優秀。ここで働く多くの使用人達も平民だ。

 其方達のように平民に支えられ生活している貴族が平民を排除して生きていけるとは思えんがどうだ?」

 

 ルーベンは口を何度かパクパクさせたが何も言い返す事が出来なかった。

 

「ローズマリー、その姿で向かわせるのは少し気が引けるが仕方が無い。ギデオンの元へ行き誰か護衛をつけてもらってセバスチャンの自宅へ行ってくれんか。

 そこを調べた結果を報告してくれ。午後の会合迄には帰るようにせよ。」

 

「かしこまりました。着替えてから向かいます。」

 

 やっぱり仕事をする感じではないか。

 

「いや、着替えなくても良いが…むしろ着替えずに行きなさい。少しはエドワードも考え直すかもしれん。」

 

「はぁ、ではこのままで行って参ります。」

 

 王の執務室から出ると首を傾げた。

 

 何だったんだろう、煮えきらない感じだったけど。ま、いいか。

 

 着替えるのは面倒なので別に良いかと思い、すぐに騎士団長ギデオンの執務室へ向かう為に城の東に位置する騎士団訓練施設も備えてある別棟へ歩いて行った。

 

 騎士団の訓練施設は普段は騎士団棟きしだんとうと呼ばれ一度行った事があるだけだ。

 

 初めて城へ働く為に来た時にセバスチャンがひと通り案内してくれたが、私が働く主な場所は王の執務室と会議室、時々厨房へ確認の為に行ったりするがほぼ連絡係の様な役目ばかりで騎士団棟へは行くことが無かった。

 

 騎士団棟には騎士達の宿舎も備えられていて新人の騎士達が住んでいる場所でもある。騎士になった最初の三年はそこで生活する事が義務付けられていて訓練に明け暮れるらしい。

 

 そのまま住み続ける者もいるが裕福な家の者は大概は宿舎を出て出て実家のお屋敷から通う者が多い。あまり裕福でないものは食事を確保された宿舎で暮らしていた方が生活が充実しているようだ。

 

 長い廊下を歩きすれ違う人が、段々と騎士が訓練の為に着る動きやすい服を着ている者が増えだすとそろそろ騎士団棟だ。

 あまり見かけない私をジロジロと見る目が怖いが平静を装い騎士団長の執務室へ急ぐ。

 

 角を曲がればもうすぐという所で出会い頭にぶつかりそうになった。

 

「わっ!」

 

「おっと…失礼。大丈夫ですか?」

 

 二人の騎士が話しながら並んで歩いていた為邪魔になっていたのだ。

 

「大丈夫です、失礼致しました。」

 

 すぐに謝り行こうとすると行く手を遮られ取り囲まれた。

 

「どこへ行くのですか?お連れしますよ、私は騎士団所属のマルテスと言う者です。」

 

「私はレスターです。ご案内しますよ。」

 

 なに?なに?なに?怖いんだけど!

 

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