第12話 変な子
鳩を友達とする変な子として私は認識されてしまった。
別に構わない。パフは私の大事なお友達だ。
私は城の一室を与えられそこで数日過ごす事となった。
夜もふけ早目に休む事にしたが慣れない部屋に慣れないベッド。
寝つけずとうとう起き上がるとベランダを開いた。真夜中の庭からパタパタと羽音がしてパフが部屋へ入って来た。
「ポッポ」(眠れないのか?)
「流石にね。明日からの事を考えると気が重いわ。」
レックス達が会合する相手は父だ。と言う事は反抗した父と毎日顔を会わすという事だ。普段でも食事の時間がかぶる朝食ぐらいにしかほとんど顔を合わせないのに一日に数時間も。
「開き直るしかないか。」
「ポッポ」(私を部屋へ入れておけ。)
「やだ、パフは絶対我慢が出来なくなるよ。」
「ポッポ」(私の言う通りにすれば上手くいく。そうすれば自由になれるのだぞ。)
「自由ねぇ…私にとっての自由な生活はエルロイ伯母と暮らしていた辺境の事ね。」
あの時が一番幸せだった。
「ポッポ」(まったく、無欲だな。それで生きていると言えるのか?欲しい物は無いのか?)
パフが首を傾げて不思議そうに見ている。
「のんびり暮らしていければそれで良いわ。パフと人気の無い森で暮らそうかしら。」
「ポッポ」(すぐに叶えてやるぞ。つまらんがな。)
パフは私の肩に乗りその小さな頭をキュッと頬に押し付けて来た。
「パフがいるならどこでも良いわ。」
「ポッポ」(仕方のない奴だ。もう眠れ、明日も早いのであろ?)
パフを連れたままベッドまで行くと毛布をかぶった。
目が覚めると知らないベッドの天蓋の中だった。
すぐにお城の一室だと思いだした。だって枕元にぷっくりまん丸くなって休んでいるパフがいる。
「おはよう、パフ。」
こうして寝るのは辺境の屋敷以来だ。
天蓋のカーテンを開きベッドから降りると硝子戸を開けた。
「お嬢様、ここでもご自分でカーテンをお開けになるのですか?」
ドアを開け入って来たのはルーだった。
「どうしてここに?」
「もちろん旦那様に言いつけられて来たのですよ。お嬢様にお付きするようにと。」
荷物を女中達が持ち込み、それを整えながらルーが着替えの用意を始めた。
「お嬢様、使者のレックス様が朝食をご一緒にどうですかと仰っておりますがどうなさいますか?」
ルーが嬉しそうに言った。
「そうね、お父様もいないし一人だからいいわ。行きます。」
「ポッポ」(あいつらか、まだマシな方だな。私も一緒に行こう。)
パフがベッドから飛び立つと椅子の背もたれに止まった。ルーはそれを見て呆れた顔をしながら私に着替えのワンピースを渡してきた。
「また鳩をお部屋に入れたのですか?」
「パフよ。鳩じゃない、それよりこのワンピースは何?いつもと違う。」
渡された物は襟元にレースがあしらわれスカートもフレアでふんわりと柔らかな印象の可愛らしい花模様のワンピースだ。
いつものなんの飾り気も無い地味な物とは全然違う。
「勿論違います。殿方とお食事なさるのですから少しは身なりにお気をつけ下さい。万一に備えて持って来て良かったですわ。」
ちょっと張り切り気味のルーに笑ってしまう。
「殿方って言っても隣国の使者の方よ。仕事でご一緒しただけだし。だからいつものでいいわ。」
「いいえ、何をおっしゃいますか。きっかけというのはどこに転がっているのかわかりませんよ。」
「私には転がってないわ。それにレックス様は平民ですもの。」
それを聞いた途端ルーはガックリと項垂れた。
私は平民だから駄目とは思わないが父が許すはずない。そもそも『無能者』の私をそんな風に見る人はいないだろう。
「でもそれはお召になって下さいね。その方がどなたか貴族の方にお嬢様の事をオススメするかも知れませんわ。」
さっきの落ち込みからなんとか復活するとルーは再び私に花模様のワンピースを着せた。
もう逆らう時間もないので仕方なくそれを身につけ、髪をいつも仕事をする時と違い美しく編み込みに結い上げると側仕えのルーを伴いレックス達が食事する部屋へ向かった。
「失礼致します。ローズマリーです。」
ノックをすると中からドアを開けてくれたのは給仕をしているラスティだった。
「ラスティ、おはよう。」
いつもの様にニッコリ笑い挨拶をした。
「おはようございます…ローズマリー…さま…」
ドアを大きく開き私を中へ入れてくれたがなんだか変な顔をしている。既にテーブルについていたレックス達が立ち上がると私を見て挨拶を仕掛けて止まった。
「おはよう…ございます。」
「ローズマリー様、ですよね?」
トーマスが素早く私の手を取りテーブルまでエスコートすると椅子に座らせてくれた。
「いや…大変お美しくて驚きました。あぁ、いや失礼。昨日もすっきりとした姿で美しかったのですが。今朝は華やかな感じで…また別の美しさというか。」
はぁぁぁぁあ!?な、な、何故そんな事を!
「あの、おやめください。そんな、わたくしなんて。」
今まで言われたことが無い言葉に恥ずかしくてクラクラしてきた。
「ル、ルー。お水を…」
私にグラスを渡しながらルーは満足気に頷いていた。冷たい水を一気に飲み干しホッと息を吐く。
顔をあげるとレックスがニッコリ笑っている。
「今日からしばらくご一緒するのが更に楽しみになってきましたよ。ローズマリー様。」
「あの、様はおやめください。昨日のように普通にお話ししてくださる方がわたくしは楽なのです。」
貴族と知れてからは丁寧に接してくれているが、慣れない対応に疲れてしまう。使用人達は仕方がないにしても彼らはお客様だし、私より年長だ。
「そうですか。では遠慮なく。ただしローズマリーさんも私達だけの時は遠慮なさらないで下さいね。」
「はぁ、努力します。」
そういうのも慣れてないが仕方ない。
やっと落ち着きを取り戻すと食べ始めた。その時、コツコツと窓を叩く音がしパフが中へ入れろと催促してきた事がわかった。
「来ましたね。中へ入れてあげても構いませんよ。」
レックスがクスリと笑いパフを入れる許可をくれた。
ルーが仕方なさそうに窓を開けるとパフはスッと入ってくると私の膝に乗った。
「何か食べる?」
「ポッポ」(フルーツをくれ。)
「林檎でいい?」
カットされた林檎をあげるとパフは美味しそうに食べ始めた。
「朝はフルーツか。肉食の鳩かと思ったが健康的なんだな。」
トーマスが面白そうにパフを見ている。
「ローズマリーさんは鳩の、パフの言葉がわかるみたいに見えますね。」
「もちろんわかりますよ。」
パフの頭を撫でながら答えた。
「昨夜も人の言葉がわかるかの様に言ってたね。」
レックスが不思議なモノを見るような目で見てる。
「ポッポ」(あまり詳しく話すといよいよ変だと思われるぞ。)
「平気よ。」
私がパフと話しているとレックスが問いかけてきた。
「今なんと言ったのですか?」
「詳しく話すと変だと思われるぞって言ってます。」
レックスはトーマスと視線を合わせた。
「お嬢様、もうお時間ですよ。」
ルーが後ろから知らせて来た。
「あら、そうね。レックス様、トーマス様、では後ほど。」
私が立ち上がろうとするとパフが飛び上がり窓から出ていき、トーマスがすっと手を引いてドアまでエスコートしてくれた。
「ではまた、楽しみにしてますよ。」
見送られて部屋から出た後、廊下を歩いているとルーがため息をついた。
「お嬢様、何故鳩の話などしたのです。せっかく美しさを褒めて頂いたのに残念美少女になったではないですか!」
「お世辞を言って下さっただけよ。残念は当たってるけど美少女にはなれないわ。」
今まで容姿を褒めてくれたのはエルロイとルーだけ、身内のひいき目なのはわかってる。
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