第8話 貴族の娘
仕方ないがこのままでは最悪の事態を招くだろう。ただでさえ今回の事を叱られるに決まってるのに更に魔術師を呼ばれれば今度こそ一生屋敷から出られなくなるかもしれない。
「実は私の父は厳しい人でして。」
「厳しい?それとケガになんの関係が、あぁ、ケガしたと分かれば心配するのか。大丈夫だ、ローズマリーさんには落ち度はなく、責任は私にあるとちゃんと説明する。」
そんなのまるで私が大事な娘のようだ。
「違います。そうじゃなくて、あの、実は私、言いにくいんですけど貴族の娘でして。」
『はぁ?』
二人が驚くのも無理は無い。普通の貴族の娘は私のような働き方はしない。
秘書だとしても王の側にいてニッコリ微笑んでいるだけのお飾りのでいるのが普通だし、まして街へ付き添うなどありえないし、串肉にかぶりついたりしない。
騎士に突き飛ばされたりしてる時点で平民の使用人だとしてもでも下っ端だ。
最近は平民でもお金持ちの娘がステイタスや貴族との出会いを求めて城で働いている事があるがそういう娘は結構大事にされている。私の立場はそれ以下だ。
「き、貴族って…」
トーマスが目を見開いて驚いている。
「はい、もうバレてしまうと思うので言ってしまいますが私はゾルガーの娘です。」
「ゾルガーって、エドワード・ゾルガー!様…」
「はい、わたくしはローズマリー・ゾルガーです。申し訳ありません。」
本当にこの名前、なんとかならないかな。
「そんな、それは…あの…数々のご無礼申し訳ありませんでした。」
レックスは動揺を隠せなかったが持ち直すとキッチリ座り直し、謝罪した。隣でトーマスも慌ててそれにならう。
「あ、いえ、大丈夫です。そうじゃなくて父に私のケガがバレるのが嫌なのです。」
「そうでしょうとも!必ず私が責任をもって謝罪いたしますから。」
さっきよりも怖い顔で真剣に私を見ている。
「違います、父に余計な事を知られ無いようにしたいのです。そうでないとまた私は屋敷から出られなくなります。」
「出られなくなるとは?屋敷の外は危険で何があるかわからないという心配からですか?」
「いえ、屋敷の外で何かあって父や一族に恥をかかせない為です。私は『
その言葉で二人は全てを悟ったという顔をした。グッと押し黙りそれ以上は口をきかない。
「私のような者が御二方をご案内する事となり申し訳ございません。本来予定していた者が急遽、来れなくなりこの事態を招きました。その者がおりましたらこうはならなかったはずです。」
セバスチャンが付いていれば他の手段を講じてうまく解決しただろう。黙ったままの二人はもう『
「お疲れ様でした。ではお部屋へご案内致しますので、晩餐会の準備まで少しご休憩なさって下さい。」
到着した馬車の扉を開けようと手を伸ばすとレックスが口を開いた。
「ローズマリー…さん。ありがとう、あなたに迷惑がかからないよう説明は私からしておくから。」
私は頷くと馬車から出て二人を部屋へ案内した。
その後、報告をする為に王の執務室へ向かっている途中の廊下から窓の外を見るとさっき私を突き飛ばした騎士が運ばれて行く所だった。どうやら暴れた馬に蹴られたらしい。
もう…あの子の仕業ね。後で叱っておかなきゃ。
とにかく報告が先だと思い、執務室へノックして入って行った。
「只今戻りました。」
「おぉ、ローズマリー。無事であったか。」
アイザック国王はホッとした様子で微笑んだ。
「一体どこで、何をしておったのだ!予定していた時間はとっくに過ぎているではないか!しかも護衛を振り切るなど何を考えておる。」
ルーベンが王の前にも関わらず私を怒鳴りつけた。
「申し訳ございません。」
私はひたすら謝っていたが馬鹿なルーベンはひたすら怒鳴ってくる。ホントに鬱陶しいやつだよ。
「まぁ、無事であったのだから良いではないか。使者のレックスがローズマリーを連れて行ったと護衛から報告もあったのだし。」
どうやら報告は正確に伝わっていたらしい。
「しかし、そこから戻るまで時間がかかり過ぎです。」
「いや、きっと彼らが自分の見たい物を見に行ったのであろ。貴族が関わっていないところでな。彼らはローズマリーを貴族とは思わなかったのだろう。だがそのお陰で何をして来たのかがわかる。話してくれるな?」
「はい、もちろんです。」
王が手招きするのに従い傍によると今日の報告をした。
「では彼らはこの国の物資のありかたと、他国への対応に興味を示していたと?」
「はい、戦争前と後の事を特に気にしておいででした。それと街の人が他国のものに対する興味の持ち方というか、好みとか何が流行っているかなど聞いてらっしゃいました。それから勇者タイラーについて。」
「勇者タイラーがどうしたというのだ。奴は辺境担当ではないか。」
ルーベンが面倒くさそうな感じで口をはさむ。
「勇者タイラーに対する扱いが悪いと…これは街の人達が言っていた事でもあります。」
「なんと…そんな事が…」
王は心底驚いた顔をした。
「勇者タイラーは自ら志願し残った魔物を討伐したいといった為責任者に据えた。なかなか片がつかず援軍を幾度か送り込み落ち着きかけた所へ戦争を仕掛けられたが、そこでも素晴らしい活躍をしていたと聞いておる。」
「はい、ですが平民達はずっと辺境に追いやられているのだと思っているようです。」
ルーベンは鼻で笑うと呆れたように言った。
「平民に何がわかる。大体平民が城へ来た所で何をすると言うのだ。王の秘書か?ローズマリーの下にでも付くか?それとも騎士団の雑用でも良いか。」
「何を言うのだルーベン。タイラーは大隊長の地位を授けておる。騎士団副長に次ぐ地位であるぞ。」
王が偉そうに言うルーベンを窘めた。
「そうは言いますが平民は平民でしょう。」
「レックス様も平民ですが国の代表としてここにいらしてますよ。今夜の晩餐会にも出席なさいますし。」
事務方ではあるが代表は代表だ。この国では貴族しか今夜の晩餐会には出席出来ないが賓客は平民だ。王は謁見を許したにも関わらず父はまだ挨拶もしていない。
これがこの国の今の実情だろう。誰の意見が一番優先されるのか。勿論国のトップは王であるアイザックだが自分についている派閥の意見を聞かない訳にはいかない。
夕刻になり晩餐会の準備が慌ただしく進められていた。
私は会場へ行くとテーブルセッティングが進められ準備が整っている事を確認し、厨房へ向かうと料理長のビルに不備が無いか確かめた。
「ローズマリー様、料理の方は大丈夫なのですが席次に変更があると言われて困っているとラスティが言っておりました。」
「ラスティが?さっきは何も言ってなかったけど。わかったわ、もう一度会場へ行ってみる。」
席次は早々にセバスチャンと王で決めていたはず。今更変更とか、勘弁してほしい。
会場にいたラスティを呼ぶと彼は気まずそうな顔をした。
「ローズマリー様、何か御用ですか?」
「席次に変更があったと聞きました。どう変わったのですか?」
「それが、ウォーレン・プライス様が隣は嫌だと急におっしゃいまして。」
「ウォーレン様の隣は…レックス様ですか。」
平民の隣は嫌って言っているルーベンの父親ウォーレン・プライスは父に次ぐ権力の持ち主でプライドも高い。
もう、今更何いっての!ずっと前から決まってたでしょ!
私はギュッと目を閉じて心の叫びを我慢すると大きく息を吐いた。
「わかりました。ちょっと相談してきますから取り敢えず予定していた席次で勧めていて下さい。」
今夜は少人数の晩餐だ、テーブルは一つ、席を変えるにはどうすればいいのか。
長机の席次は中央左に主催の王、向かいに賓客のレックス、王の右に父エドワード、使者レックスの右にウォーレンだ。続いて騎士団長、フェルナンドと続くが…
晩餐の準備をしているはずのアイザック国王の部屋へと急いだ。
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