第7話 魔王と呼ばれた男
今から数年前、ラッテンリット国内に魔王と呼ばれた男が現れた。詳しくは知らないが男は魔物を操る事も出来る魔術師でその力は計り知れなかったらしい。
最初は噂程度で魔物を操る男がいるらしいという程度だったがあっという間に一つの街を支配下に置き、次に従わなかった町を破壊した。
隣国にも侵攻し次々と魔物を操りながら人々と町を支配、または破壊して行った。
周辺地域のいくつもの国が騎士団を派遣し討伐しようとしたが叶わず、小国ウギマは滅亡へと追い込まれた。男はウギマの都の跡地に居座るとそこを拠点とし従わない国へは魔物を送り込むなどして勢力を広げ、やがてその恐ろしい力と残虐さから魔王と呼ばれるようになった。
魔王が旧ウギマを拠点としてから数年後、一人の戦士が現れ奴に挑むと破れた。命からがら逃げ出したが一年後再び戦いを挑み勝利した。
人々は彼を勇者と呼び讃えた。
勇者の名はタイラーといい、ラッテンリットの小さな町出身の平民だった。周辺地域の国々からタイラーを自国へ引き入れようとあらゆる勧誘があったが彼はラッテンリットに留まった。
ウギマがあった場所は魔王を倒したタイラーがラッテンリットの者だった為、我が国の支配下とされ思わぬ機会に国土を広げた。
魔王に操られていたとはいえ多くの魔物が旧ウギマに棲息するようになっていたがそれも徐々に討伐され落ち着くと再び人々は町を作り生活をはじめた。
だがそれを気に食わないものがいた。旧ウギマの隣国オスロワスがその地を奪おうと攻め込んできたのが約一年前。一ヶ月前に終わった侵略戦争というのがそれだ。
「確かに勇者タイラーの扱いはひど過ぎるな。」
串肉を食べ終わり飲み物を手にトーマスが呆れたように言っている。私は疑問を口にした。
「勇者タイラーの扱いが酷いというのはどういう事なんですか?」
二人は困った顔をした。
「まぁ…それはだね。」
トーマスが言いにくそうな感じでレックスの方を見た。
「ローズマリーさんは辺境で育ったと言っているが勇者タイラーが魔王を倒した事は知っているだろう?」
「はい、存じております。一度敗れたにもかかわらず果敢に挑み見事に討伐したと聞きました。」
私がちょうど『魔術開花の儀式』を行う為に父が辺境へ来ると知らせを受けた頃だ。
皆が魔王討伐成功に喜んでいた中、私は『
努力が実り人々から勇者と讃えられた彼と『
「騎士団が立ち向かっても勝てなかった相手を見事に討伐したタイラーを騎士と同等扱いとし、報奨を与え騎士団での大隊長という地位を与えたまではまだ良かったが、そのまま魔物討伐の責任者に据えた。」
「優秀な者にしか出来ない事なのではないでしょうか?」
多種多様な魔物を討伐するのはとても難しい事だと聞いている。
「勿論そうだが、だからといって何年も辺境で戦わせ、続けて侵略戦争にまで駆り出すのはやり過ぎだろ。」
「そうなのですか?責任者になったのなら最後まで責任を持って見届けるのだと思っていました。その地域で不測の事態が起きればそれに対応するのも当然なのかと…」
勇者タイラーは優秀だが不運という感じかな。魔物の討伐が思っていたより手こずり、そこへ隣国からの襲来。ツイてない。
「ローズマリーさんは幸せな方ですね。頭の中にお花畑でもあるんじゃないですか?」
レックスがため息をつくと立ち上がった。
「レックス、ローズマリーさんは何も知らないのだ。そんな言い方するな。」
どうやら私の考え方は二人とは合わないらしい。頭の中にお花畑があるなら私も少しは楽しく過ごせていたかも。
「お気に触ったようで、お詫び致します。」
私も立ち上がり謝罪すると、近くにいた白い鳩が急に羽ばたくとレックスへ飛びかかった。
「うわぁ、何だコイツ!あっちへ行け!」
レックスは鳩を払い除けたが頭をガシッと足げにされていた。
「ちょっと!止めなさい!」
私は慌てて間に入ると鳩はサッと飛び去った。
一瞬の出来事だったが驚いて見ていたトーマスが笑い出した。
「随分律儀な鳩だな。肉のお礼にローズマリーさんを悪く言ったレックスに襲いかかるとは。」
レックスはムッとして蹴られた頭をさすっている。
「私が金を出したのだぞ。」
「お前の金だが支払ったのは私だからな。鳩はそれを知らなかった。知らない事は仕方が無い。ローズマリーさんも同じだ、知らないだけだよ。」
頭をさすりながらレックスは黙っていた。トーマスが私達を促し歩き始めると商店が立ち並ぶ通りを抜け、最初に馬車を止めた所まで来た。
そこにはイライラとした冒険者の装いの騎士達が待っていて、私達を見つけると駆け寄ってきた。
「どこに行っていたのですか!勝手をされては困ります。」
「すまない、自分達だけで街の様子を確かめたかったのだ。ここはよく賑わったいい所だね。」
レックスが騎士達に謝罪し馬車へ乗り込んでいった。トーマスも謝罪の言葉を述べると続いて乗り込む。
私は騎士の一人に腕を掴まれ馬車から離されると睨みつけられた。
「一体これはどういう事だ。お前は何をしていたのだ。」
掴んだ腕に力を込めると乱暴に突き放され、よろけて躓くと転んだ。
「イタッ!」
それを見ていたもう一人の騎士が止めに入った。
「よせ、その女はゾルガー様の娘だ。」
私を突き飛ばした騎士は一瞬怯んだ。その時、馬車からレックスが飛び出して来ると慌てて私を助け起こした。
「何をするんだ!この娘は関係無い、私が勝手に連れ出しただけだ。」
私を立たせるとレックスは騎士に言った。
「恐れ入りますが彼女にはお二人を
「それは私が勝手にした事だと言えばいいではないか。こちらからもよく伝えておく。」
「是非、お願い致します。その者はただの秘書ですが我々は騎士ですので。責任を問われますから。」
レックスが騎士達に話している間に降りてきたトーマスが私を馬車へ連れて行こうとした。
「大丈夫です、平気ですから。」
「だが、ケガをしたんじゃないか?」
転んだ時に手をつき少し痛めていたがサッと後ろに回した。
「いえ、大した事はありません。」
私は目だけで辺りをうかがいあの子が来ていないか確かめた。
大丈夫そうだ。
「とにかく城へ戻りましょう。少し遅くなってしまいました。急がなくては晩餐会に間に合わなくなってしまいますから。」
時間は余裕をもっていたので大丈夫だが皆を急かして馬車へ乗り込んだ。
馬車は順調に進みバザールから遠ざかると喧騒も段々と落ち着いてくる。
「すまなかったね、君を巻き込んでしまって。」
レックスがちょっと落ち込んだように言った。
「いえ、大丈夫です。」
「だがケガまでさせてしまった。」
トーマスが私の手をとり怪我の具合を確かめようとした。
「本当に大丈夫です。少しひねっただけですから。」
「城には癒やしの魔術を使える者がいるだろう?帰ったらすぐに呼んでもらおう。」
「いぃぃえ!無理です。大丈夫です。癒やしの魔術は貴重な魔術ですから、私なんかの為にはには呼べません。」
慌てて止めると手を引っ込めた。そんな事、父が許すはずない。
「何を言ってるんだ、すぐに呼んでもらう。でないと私の気が済まない。」
レックスは怖いくらい真剣な顔をして私を見てる。
マズイなぁ、このままじゃ魔術師を呼ばれてしまう。そうなれば父に知られてしまう。
それだけは避けたい。
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