第529話 因縁の再決着

全て丸く収まったようにも思えるが、個人的な決着がまだ残っている。


奉先ほうせん、この間の再戦を申し込みたいんだけど、いいかな?」


ロランの急な言葉に一同が静まり返る。


祝勝ムードに水を差す形になり、なんだか申し訳ないが、どうしてもそのままにできない理由がいくつかあった。


「フンッ、構わんがどうなってもしらんぞ」


奉先が方天画戟ほうてんがげきを構え、場がざわついた。

目に再び戦意が宿り、剣呑な雰囲気になる。


ロランも≪天之尾羽張あめのおはばり≫をその手に出現させると、五代目剣聖が得意としたらしい「エク・リール」の構えを取る。


最早この戦いは避けられないのだと悟った≪魔星≫たちもロランたちと距離を取り始めた。


戦いの余波が他に及ばぬようにトンペイ老師たちが結界をこの場に張り巡らせてくれた。


貂蝉ちょうせんさんの件は、約束を守るよ。だけど、どうしてもこの戦いを避けられない事情が俺にもあるんだ」


「事情? 戦士としての誇りだろう。それ以外に何がある。敗戦の恥辱を雪ぎ、己の方が勝っているのだと誇示したい。それは何ら恥じることではないし、理解できる」


「いや、違うな。俺は戦士じゃないし、実際に武技に関してはお前の方が優れていると認めるよ」


「……では何だ。何がお前をこの戦いに駆り立てる。 俺はもうお前と戦う気など持ち合わせていなかったが、なぜ再戦を望んだのだ?」


「……愛かな」


「笑止! 愛だと?」


「お前のその肉体はさ、元はと言えば俺の想い人の父親のものなんだよね。魂魄は消失しちゃったらしいけど、せめて亡骸だけでも取り戻してあげたいなって思っているわけよ。個人的なリベンジも確かにあるけど、それはその次かな。ちなみに、貂蝉さんの件は約束を守るから安心してよ。もし俺が勝ったら、責任をもって幸せにするから」


「……痴れ者め」


挑発に乗ったわけではないのだろうが奉先が先に動いた。


軍馬を模した鎧飾りの口から灼熱の炎が吐き出され、それが方天画戟ほうてんがげきの刃に宿る。


奉先の凄まじい膂力から繰り出される横薙ぎの一撃は、空を裂き、ロランを一刀両断にしたかに見えた。


だが、奉先が斬ったと思ったのはロランの残像であった。


後の先。


ロランの体はすでに奉先の体近く、右脇のすぐ傍に移動しており、長物の弱点である近接距離にあったのだ。


エク・リールは、剣聖技最速の動きを誇る闘法バトルフォームである。

筋肉や関節の動きを最効率化させ、その肉体の持ちうるポテンシャルを最大限に生かすことを主眼に置いている。

それゆえに体への負担は大きく、習得するには人並外れた頑健さと柔軟さが必須となるほどなのだ。


だがその点、ロランの神宿る肉体はこの闘法に最適だったと言える。


元々スポーツらしいスポーツを前世からやってこなかったこともあり、何の癖もその動きにはついていなかった。


さらには様々な体位でエッチをすることに挑戦したことで柔軟性をも獲得していたのだった。


ロランはそのまま勢いを殺さず、≪天之尾羽張あめのおはばり≫を奉先の胴に突き刺した。


自分史上、最速の動きで。


「これで勝負あったということにしてもらっていいかな? ≪天之尾羽張あめのおはばり≫は、神を殺す刀。これ以上はお前の神霊魂を消滅させかねない」


「……男子三日合わざればとはよく言ったものよ。この間とは見違えたぞ。相当の修練を積んだと見えるな。時間を止めたとて、お前の方がより長く止めることができることはもう理解している」


奉先は胴を刺されたまま、忌々し気に、遠くで観戦していたシームに目を向ける。


「……いいだろう。認めよう。俺はこの世でお前の師とお前の二人には決してかなわぬとな。股下をくぐれと言われれば、甘んじてそれも受けよう。俺にはまだ未練がある。ここで死にたくはない……」


その言葉を聞き、ロランは刃を引抜くと同時に、ナミーシア・レガシーで奉先のアストラル体と肉体を修復した。


そして、奉先の神霊魂から、グナーシス・レガシーで借り物である肉体を引きはがした。


一瞬、話が違うというような表情をされたが、その奉先を自身のアストラル体で掴み、内在世界にある≪冥府≫に飛んだ。




≪冥府≫は、前回訪れた時から短期間でかなり様変わりしていた。


U〇Jやオリエン〇ルランドも真っ青になってしまうような旧地球文明のテーマパークのようになってしまっていた。


その中の一画に、そこだけ場違いなほど厳粛で、陰気臭い、いわゆる地獄や冥府と呼ばれるものそのままの印象のエリアがあった。


そこは死んだ人族の魂が行き着くところで、ここに奉先を連れて来たかったのだ。


「こんなところに俺を連れてきてどうするつもりだ?」


「ここで住み込みで働いてもらおうかなと思ってさ。永遠に」


「ふざけるな。ここは一体どこだ? 俺を元の場所に戻せ!」


「戻しちゃっても良いのかな?」


「なんだと? 何が言いたい」


「お前の神霊魂、傷だらけでボロボロだろ。おそらく、ヤルダバオートの力で応急処置はされてるけど、あのまま現世に居たら負担は大きいし、あの借り物の体だって、お前の力を宿すには不十分でそんなには持たないはずだ。だからあえてあの爺さんに従っていたと思うんだけど、ここならその傷を癒しながら、俺が死ぬまでは生きられる。貂蝉さんだって、あの魂魄見る限り、神ではないようだし、もしグナーシス・レガシーで新たな体を作ってあげても人間の寿命は儚い。それほど長くは一緒にいられないだろう。だから、この冥府で二人仲良く暮らせばいい。この冥府テーマパークにもけっこう強者つわものがいるから退屈しないと思うし、悪くない話でしょ?」


「何か騙されているような気もするが……」


「この冥府には、テーマパーク以外に魔族の魂がやってくる場所と人族の魂がやってくる場所がある。魔族用の冥府はリヴィウス神という神にお願いして、人族用の冥府はお前が管理してくれると助かるな」


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