第528話 大団円

「この技、やっぱりかなりヤバいな……」


射出速度、威力、そして範囲。

全てが規格外だ。


原動力が、人間の心の輝きという曖昧な部分も相当に壊れている。

自分が希望を失わずにそれを信じてさえいれば、「にんげんだもの」という理由で無尽蔵にその威力を高められるのだから。


ため時間さえ確保できれば、大抵の敵には効くんじゃなかろうか。


ロランの指先から放たれた≪無明一閃むみょういっせん≫は、その途上にあった小惑星や岩石、チリなどを吹き飛ばし、宇宙空間に放り出されたヤルダバオートに命中すると、さらにその先の空間ごとすべて無に帰してしまった。


命中させたことに関しては、ロランの超人的な視力による目視以外に、おそらくK・Yカク・ヨムアヴァターが影ながら軌道修正などをしてくれたことが貢献していると思われた。

それは≪無明一閃むみょういっせん≫の軌道が直線ではなく、微妙な曲線を描いていたことから、重力や様々な抵抗の影響を受けているであろうことは明白であったからだ。


同時に足下の純鉄の地形にスキル≪カク・ヨム≫を使用し、時間を止めて、ヤルダバオートに回避のための行動をさせなかったことも功を奏したようだった。


じっくり確認している暇が無かったのだが、この短期間でなぜかPVが大量に得られたようで、『総獲得PVが100,000,000を突破しました。スキル≪カク・ヨム≫の熟練度が上がり、CからAに上がりました』というメッセージウィンドウが現れ、創作タイムが三十分に伸びていた。


おかげで≪無明一閃むみょういっせん≫をより長く溜めることができ、そして時間停止が解ける十数秒前に発射することで、ヤルダバオートに直撃の瞬間まで破壊エネルギーの接近を悟られることを防ぐことができた。



「どうなった? 片が付いたのか」


武神奉先ほうせんとシーム先生が傍に飛んできた。


ロランは自らが目撃したヤルダバオートの最後にまつわる一部始終を二人に説明した。

噴火の原理で惑星外に吹き飛ばしたまではわかっていたようだが、その後何をしたのかまではわかっていなかったようで、二人とも目を丸くして驚いていた。


「いや、宇宙に放り出すだけでも良かったかもしれないけど、変な再生能力みたいなのが備わっていたみたいだから念には念を入れた。あいつの僅かな断片は方々に散っていったようだし、もう≪神気≫も感じない。もし、万が一ヤルダバオートが生きていて、また戻ってくるようなら、その時はその時で考えるとして……。でも、きっと戻ってこれるとしても相当に時間がかかるはずだよ」


ちなみに噴火によって飛散した物質はグナーシス・レガシーによって、無害な空気に変換し、地上への被害を最低限に抑えた。

噴火による地響きやそれによる二次災害はあっただろうが、それは下の≪魔星≫たちに委ねようと信じ託すことができた。


自分はもう一人ではない。

頼れる仲間がたくさんいるし、それをなんとかできる能力を皆が持っていることもわかっている。


さあ帰ろう最愛の人たちのもとへ。



ロランは、屹立した鉄の塔のようになっている地形を元の状態に直し、シームたちとと共に地上に降りて行った。


そして集まって来た≪魔星≫たちに勝利を伝えると、場は大いなる歓喜に満ち溢れた。


ヤルダバオートとの同化を拒んだ残党もいるにはいたが、自分たちの敗北を悟ると武器を捨て投降を始めた。


こうしてヤルダバオートによる真の自由を掲げる世界の創造の野望はついえ、カドゥ・クワーズにようやく平穏が戻り始めたのであった。


瓦礫の山と化した王都を見て、心が痛んだが、ロランは必ず人々は復興できると確信できていた。


神が考える以上に人間は強い。


如何なる苦難にあろうとも希望を見つけ出し、何度でも立ち上がる。


実際に王都に住む人たちは、助けを待つこともなく自分たちで救助活動を始めていた。

瓦礫の下敷きになった人たちを救助したり、その人たちを休ませる場所の確保を始めていたのだ。





 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る