第524話 佛田

「あー、ヒマだな。また、ハルマゲドンでも起こらねえかな」


佛田ぶつたは、物凄く暇だった。


代わり映えしない日々、一向に進歩する兆しがない人類、そして薄利だが、ほぼノーリスクで順調すぎる惑星経営。


カドゥ・クワーズから、およそ591億光年離れたとある惑星にある六畳間の1LDKに住んでいるのだが、そこに敷かれた畳の上に佛田はただ寝転がっていた。


特に腹が減ったわけでもなかったが口寂しかったのでカップラーメンを作り、それが出来上がるのをひたすら待っていた。


「お、おい、佛田! 大変なことになってるぞ」


そう言ってドアを勝手に開けて入って来たのは、惑星の共同経営者のジーザスだった。


ジーザスは相変わらずのウザいロン毛にブラシもかけていないような有様で、髭の伸びた顔を真っ青にしている。


「おいおい、いくら鍵かけてないからって、ノックぐらいしろよ。マナー違反だぞ。俺がオ〇ニーしてたらどうするんだ」


「ああ、すまない。だが、お前、≪カク・ヨム≫をチェックしてるか?」


「≪カク・ヨム≫? なんだっけ、それ……」


「そのカップラーメンの蓋の上で重し代わりに使ってる、それだよ!」


ジーザスが指さしたそれは、板状の端末で微量の≪神気≫を流し込むことで、内容の閲覧と操作ができる神器の一種だ。


「ああ、これね。ロランとかいう馬鹿ガキが、魔族の女とイチャイチャしだした辺りから読んでねえわ。こんなくだらねえ本送ってきやがって、ディヤウスの奴、今度会うことがあったら、腹パン百八発お見舞いしてやるわ」


「そのディヤウスだが、どうやら死んだらしいぞ」


「……」


「今、光神界中が大騒ぎになってる。どうやらカドゥ・クワーズの覇権をめぐって大きな戦いが行われているらしい。上の連中は、あの惑星が再び闇の勢力の支配地になるのではないかと気が気ではないようだ。現存する≪カク・ヨム≫をかき集めて、全登場人物の全エピソードの研究を今始めている」


「そっか、あいつの形見になっちまったわけか、この本。それじゃあ、≪現世貢献点≫いくら積まれても譲れないな。それで、現地の情勢はどんな感じになってんの?」


「いや、それが……俺の分は譲ってしまってもうないんだ」


「薄情だな。まあ、あいつは友達いなかったから、しょうがないか。俺だって友達ってわけじゃなかったからな。まあ、変わってたけど、発想がなかなか面白い奴だったわ」


「それで、お前のところにすっ飛んできたわけだが、ちょっとそれ読ませてもらっていいか? お前の部屋、テレビもないし、神界新聞もとってないだろ。だからきっと、まだ持ってるって思ったんだ」


「ああ、いいよ。その代わり読んだ内容を俺にも教えてくれよ。その本、めちゃくちゃ目にくるし、なんか力吸われているような感じがあるんだよな」



さっそくジーザスは≪カク・ヨム≫に齧りつくように読み始め、その傍らで佛田はすっかり伸びてしまった味噌味のカップラーメンを啜った。


「やっぱり、とんでもないことが起きてるみたいだ。あのロランという少年、神になってる……」


「ブーッ! げほげほ、何だと、ふざけるのもほどほどに……」


麺の欠片が鼻の奥に入り、取れなくなってしまったがそれどころではない。


そこから先は主人公ロランの物語を二人で食い入るように読み進めていった。









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