第447話 隠されていた真実の姿

完成版≪カク・ヨム≫を破損してしまった≪オペーションシステム:ディヤウス≫無しで行使するためのK・Yカク・ヨムアヴァターの仕様変更が終わった。


K・Yカク・ヨムアヴァターを覆っていた古い仮面と外殻は完全に崩れ去り、その下から現れたその姿は、まるで俺自身が機械化されたかのような未来的なデザインだった。


K・Yカク・ヨムアヴァターは、現在の時間停止状態の再延長を提案してきたがロランはそれを拒否した。


一旦、時間停止状態を解除してしまうと、再び時間を止めるのに膨大なPVコストが発生してしまうらしく、その判断で本当にいいのかと再考を求められたが決断に変わりはない。


K・Yカク・ヨムアヴァターによれば、スキル≪カク・ヨム≫を発動させたときに発生する創作タイムと異なり、こうしたメンテナンスや作業のための時間停止は、このスキルにおける設計外の緊急措置的なものであるらしく、宇宙全体の摂理を捻じ曲げる荒業であるため多用は不可能であるらしい。



このまま止まった時の中で、はるか階上のヤルダバオートを倒してしまうのが最も安全な方法ではある。


しかし、ヤルダバオートを倒しても、地上で繰り広げられている教団同士の対立が終結するわけではないし、こいつにはまだ聞かなければならないことが山のようにある。


まずは話をしてみよう。


K・Yカク・ヨムアヴァターの頭上にある残りタイムの表示がゼロを示し、それと同時にその姿も虚空へと消えた。


周囲の雑音と喧騒が戻り、時が動き出したのがわかる。


「親愛なるヤルダバオート神様、ここに我らの新たなる同志。地球からの≪転生者≫をお連れしました。名前はロラン。どうか、この者にスーパーマン・ステアーズを昇り、御身に近づくことをお許しください」


この爺を崇める教団の教主を任されているアンリ・プッティーノが大声で神の玉座に向かって許しを請うた。


何か懐かしいな。

某有名超人漫画で、ジェロ〇モが人間から超人になるための試練を受けるための階段みたいな名前だ。


たしか、スーパ〇マン・ロードだったっけ?


「な、ならん!ならんぞ。愚かなアンリよ。己が何者を連れてきたのかわかっているのか。おい、誰か、その男を私に近づけるな!」


「えっ、何とおっしゃいましたか? 声が小さすぎて聞こえませんが……」


天頂神座てんちょうしんざ≫の力を失ったためだろう。

ロランの耳では拾うことができたが、隣のアンリ・プッティーノにはよく聞き取れなかったらしい。


これまでは、眩いばかりの光によってその老醜を隠し、拡声効果などがある何かで己の真の姿を隠していたのだろうが、もはやそれも不可能になったのだろう。


今もまだ、痰が絡んだようなかすれ声で騒ぎ立てているが、階下の仲間たちには届いていない。


ロランは、ヤルダバオートの拒絶の意思を無視し、スーパーマン・ステアーズを一段、また一段と昇り始めた。


背後から、「お、おい」というアンリ・プッティーノの声が聞こえたが無視した。


それにしても長い階段である。


四、五千段くらいはあるんじゃなかろうか。


「一歩一歩昇るのだるいな。……飛ぶか。空だって飛べる。だって人間だもの」


ロランがそう呟くと背に、≪人間光じんかんこう≫による輝く翼が現われて、一気に神の玉座まで行くことができた。



「爺さん、あんたがヤルダバオート?」


ロランがそう問いかけた相手は、狼狽え、怯えるただの醜い老人であった。

遠くからはマッチョに見えるように肉襦袢にくじゅばんを着込み、禿を隠すカツラをかぶっているが、その顔に多く刻まれた皺や老班はそのままで、人間で言えば八十歳はとうに過ぎているような印象の見た目だった。

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