第446話 孤高の魂
≪復元記憶データ≫から推測するに、どうやらディヤウス神はすでにこの世の者ではなくなっている可能性が高くなってきた。
これは、元≪カク・ヨム≫運営の守護天使たちの話とも矛盾しないし、それどころかこれまで感じていた様々な疑問を一気に解消するピースになった。
なぜスキル≪カク・ヨム≫という人間が授かるスキルにしては規格外のものを俺が手にすることになったのか。
そして、このカドゥ・クワーズの創造神であるグナーシスの死、地上で繰り広げられている教団間の血みどろの抗争など、全てはこの神の玉座にあるヤルダバオートとかいう
「まあ、だいたい分かった。最後に≪復元録画データ≫だっけ? それを見てみよう」
全てを受け継いだ君へ。
黒背景の画面にL字に配置されたフォントが、某ロボットアニメを彷彿させる。
ディヤウスって意外と地球のアニメのファンだったのかな。
「やあ、ロラン。僕の名はディヤウス。このカドゥ・クワーズを管理してた神だ。君がこの映像記録を見ているってことは、僕はもうこの世にいないということなんだけど、……おっと、キャメラの位置がいまいちだな」
椅子に座った状態で登場した青年神がゆるい笑顔を浮かべながら語りかけてきたが、何かに気が付き、仕切り直しになった。
明るい金色の柔らかそうな髪をしており、顔立ちは整っていたが、どこにでもいそうな親しみやすさを感じる文学青年のような見た目をしていた。
リヴィウスにどこか弟の面影があるみたいなことを言われたことがあったけど、あまり似ているような気はしない。
俺の方がイケメンだと思うけど……。
「おっと、ごめんごめん。それで、どこまで話したんだっけ。……そうだ!僕がもう死んじゃってるっていう話だった。そう、実はこの映像を取っている時点で僕は、自分の身に危険が迫っていることを悟っている。そして、もう取り返しがつかないことも。僕に長年仕えてくれていたヤルダは、実はとんでもない野心家だった。その事実に気が付いたのは最近のことだったんだけど、僕にはもうどうすることもできない状態に追い込まれていたんだ。ヤルダは自らの故郷である地球……、ブツッ、ザー」
ここで映像が途切れた。
「損傷が激しく映像はここまでしか復元できませんでした。ここまででおよそ十四分二十二秒」
「そっか、地球の話が出てきて、これからというところだったんだけどな……」
「音声データは保存箇所が異なっていたため、損傷を免れており、映像無しで良ければ、続きを聞くこともできますがいかがいたしますか」
「マジで? 中途半端でモヤモヤするから、聞けるなら聞かせてよ」
「音声データの残り時間はおよそ八分です。時間停止効果の延長には800PV必要ですが、よろしいですか?」
「いいよ。さあ、続きを頼む」
映像が戻らないまま、録音されていたディヤウスの話が再開した。
「……地球から≪転生者≫を集め、異邦神の協力者を匿いつつ、極秘で自らの勢力を拡大させていたんだ。僕は神としての務めに忙しくて、何も見えていなかった。ヤルダは、僕が信頼し、最後まで手元に残した守護天使さえも懐柔してしまったようだ。もっとも、これがきっかけでヤルダの野心に気が付けたわけだけど、僕がもう気が付いているという事実は悟られるわけにはいかない。僕は僕なりにささやかな抵抗を試みているところなんだけど、勝算はほぼ無い。何せあの強大な父神様を倒し、なおかつ多くの配下を従えているんだ。それに引き換え、僕は今、たった一人だ。せめてもの嫌がらせに、奴が欲している≪天頂神座≫の力の大半をスキル≪カク・ヨム≫機構に移行させることに成功したんだけど、これがバレたらきっと僕は殺されるに違いない……」
長いな。自分で聞くって言ったんだけど、なんか眠くなってきた。
自分語りじゃなくて、もっと有益な情報を出してほしいところだ。
「君がまだ存在していて、この映像を見ているということは僕の計画は失敗し、君の肉体を依り代にし損ねたということなんだ。おっと、気を悪くしないでくれよ。こっちも必死だったんだ。ヤルダが収集していた地球人の、異常執着者及び奇人変人の魂コレクションの中から≪高橋文明≫の魂を盗むことに成功した僕は、君をこのカドゥ・クワーズに密かに転生させた。君の魂は、そこに並んでいる中では比較的善良そうだった。添え書きによれば、酒色におぼれず生涯童貞、小説の創作活動に一生をささげた孤高の魂。それが、君、高橋文明なのだよね? 地球人の魂は、このカドゥ・クワーズの人族のものよりもはるかに優れていて、ヤルダが呼び寄せた強力な≪転生人≫たちと渡り合い、≪天頂神座≫に辿り着いてもらうためには、同じ≪転生人≫である方が望ましかったわけだ。君が六歳になるのを待って、僕の叡智と技術の結晶であるスキル≪カク・ヨム≫を授けるつもりだけど、どうかな、役に立ってるだろ?」
ショックだ。
俺の魂は、異常執着者及び奇人変人のカテゴリに分類されるような魂だったのか。
自分では、常識人だと思ってたから、ディヤウスに体を乗っ取られそうになっていたという事実よりも正直、驚いた。
しかも酒色に溺れなかったのではない。
引きニートの身分で酒などそうそう飲める身分ではなかったし、女性に関しては単にブサイクでまったく相手にされなかっただけだ。
定職に就かず、部屋に閉じこもっていたのでは出会いなど有る訳もない。
秘蔵のアダルトビデオで己を慰めるのが関の山であった。
「話が脱線してしまったね。時間ももう無いし、本題に入ろう。僕が最後に君に伝えたかったのは、このカドゥ・クワーズの行く末に付いてだ。君がこの映像を見ている時点での情勢は推測することしかできないが、僕が死に、ヤルダがその恐ろしい本性を表し始めているのだとすると、この世界はいよいよ外世界から来た侵略者たちの思うがままにされていることだろう。僕の一生は、外来神からこのカドゥ・クワーズを守るためだけにあったようなものだった。同じく外世界の地球から転生してきた君に頼めた義理ではないが、僕のことを少しでも哀れに思うなら、君に授けたスキル≪カク・ヨム≫の力を持って、これらの侵略者たちを駆逐してほしい。カドゥ・クワーズをこの星の神と民による正常な状態に戻してほしいんだ」
なんか、「池の水を全部抜いてみる」みたいなテレビバラエティー番組みたいな話になってきた。
ディヤウスにしてみれば、俺たち≪転生人≫は、無責任な飼い主が野に放った外来種のような存在のようだ。
外来種を持って、外来種を制すみたいなそんな感じなんだろうか。
「孤高の人、高橋文明よ。君の魂は外から来た存在だがその血肉は、僕が与えたものだ。僕の神力の一部を使い、その肉体がスキル≪カク・ヨム≫に順応できるように創ったわけだから、君も愛しい我が息子たちの一人だ。外来神であるヤルダが転生させた者たちとは違う。カドゥ・クワーズの民の一員として、どうか僕の願いを叶えてほしい」
う~ん、よくわからないけど、地球育ちのサ〇ヤ人みたいなものか。
「そうだ!僕には三人の兄たちがいる。もう出会うことはできただろうか。彼らは、二千年前の戦いで光の神の連合軍に殺される恐れがあったので、僕がその前に封印したんだけど、そろそろ封印が解ける頃だ。もし出会えたなら、事情を話し、協力を仰ぐといい。次兄リヴィウスには、僕の考えを全部話してある。彼に相談すれば間違いない」
そのリヴィウスは俺が消滅させてしまったんだけど……。
ガリウスはポンコツだし、アウグスは相変わらず神霊魂を抜かれたままだ。
「さあ、伝えたいことはだいたいこれで全部だ。もうじき、ヤルダたちが戻ってきてしまうし、これで終いにしよう。僕としてはこの≪録画データ≫が不要になってほしいところだけどね。最後にもう一度。孤高の人、高橋文明よ。どうか僕の願いをかなえてほしい。頼んだよ」
孤高の人って、響きは良いけどなんか俺の印象と違うよね。
言葉足らずの添え書きから連想した間違ったイメージだと思う。
我がことながら、これ絶対に人選ミスだったと思うわ。
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