第444話 ≪カク・ヨム≫計画の全貌
≪
神の玉座に至る長い昇り階段の下にまでやってきたロランの見上げる先には奇妙な老人がおり、玉座から身を乗り出してこちらを凝視している。
その老人の皺だらけの顔は、ひどく痩せていて、醜い染みが目立っていた。
筋肉の模様が付いた肉襦袢を着ており、その上に古代ギリシアのエクソミスのような恰好をしているのだから、滑稽この上ない。
「ねえ、あの爺さんがヤルダバオート?」
「えっ、爺さんですか。私の視力ではよく見えませんがそのようなわけは……」
アンリ・プッティーノはその黒い染料を塗った顔をゆがめ、目を細めて確認しているがどうやら彼の視力ではあの老人の姿ははっきり確認できないらしい。
「まあ、いいや。あいつと話せばいいんでしょ」
そう言って階段の一段目に足を乗せた瞬間、周囲の雑音が消えた。
この静寂に覚えがあると思い周囲の様子を窺うと、案の定、時が止まっていた。
あたかもそれはスキル≪カク・ヨム≫の創作タイムの時のように、アンリ・プッティーノも、玉座の老人も、この空間に
『バックグラウンドで、スキル≪カク・ヨム≫の補完を行いました。≪
そう告げてきたのは、突如、目の前に現れた
だが、どうにもその姿がおかしい。
損傷が見られるのは仮面だけではなかった。
「どうしたの? 完全版になったっていう割にはボロボロだし、弱ってない?」
「いえ、心配は無用です。これはあなたの分身たるこの私の進化の過程。漲る圧倒的なエネルギーを得て、隠されていた真の姿が現われようとしているのです」
「よくわからないけど、そうなんだ」
「ディヤウスが極秘裏に長い年月をかけて、≪カク・ヨム≫の運営拠点に移送できた力は全体のおよそ65%ほどです。そして、この≪
「問題?」
「はい、この≪
「それって、今話をしている人格のお前が上書きされて、ディヤウス神の複製人格が成り代わっちゃうってこと?」
「ディヤウス神が存命なら会話できるもう一人の自分として、もし何か不測の事態が起こっており、ディヤウス神が死亡していた場合は、私を復活のための憑代にするというのがこの≪カク・ヨム≫計画の全貌であったわけです」
「う~ん、ということは、今はいったいどういう状況? そのどちらでもないわけだよね」
「どういう経緯かは、この破損した≪オペーションシステム:ディヤウス≫内の残存記憶データを修復することで確認できるかもしれませんが、再生してみますか?」
「今、取り込んでるからな~。この時間停止状態ってあと何分くらい続くの?」
「バックグラウンド処理中の進行タスクを表示します」
「うわ、残り1パーセントなのに、十五分以上かかるの?」
「イエス、≪オペーションシステム:ディヤウス≫を取り込めなかったので、代わりに私がワンオペレーション操作するための仕様変更を実施中です。≪カク・ヨム≫の読者である数多の神々から少しずつ収奪した
「いや、延長はいいや。十五分もこのままボーとして待ってるんじゃ暇だし、その残存データとやらを見てみるか」
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