第440話 あっ!
「あっ!」
ここから遠い北東の方角で新たな力が誕生した瞬間を感知し、ロランは思わず驚きの声を上げてしまった。
エゼルキアのすぐ南。
そこはおそらくあのガリウス神が本拠にしているアロガン男爵家の居城。
禍々しい闇の気配が集まり出し、そしてそれが弾けた後に、力強い≪神の気≫が膨れ上がった。
それはロランと比較すると、質、量と共に格段に劣るものの、確かに新たなる神の出現というに足る存在感であった。
そして、その新たに生まれた神の放つ気の正体は紛れもなく≪
ジョルジョーネたちがロランのもとを去ってから、ガリウスが≪ギルティ・オブ・ブライブリー≫を使ったのを感じたのは二回。
前回の時は、≪魔星≫に名を連ねる誰かがかなり巨大な魔闘気を有する存在になれはしたようだが、神と呼ぶにはまだ遠かった。
それでも、このカドゥ・クワーズにおいて指折りの実力者になるほどのパワーアップは遂げているのだが、「神になる裏技」として入れ知恵した手前、誰か一人ぐらいは結果を出してもらわないと俺が嘘を教えたことになってしまう。
≪ギルティ・オブ・ブライブリー≫は、憑代になっている人間が抱え込んでいた闇を増幅し、それを糧に効力を発現させる。
思い描く願望を叶える代わりに、その対象を闇に属する何かに変貌させるのだが、その際にその人間の≪著作権≫というものがガリウス神に移行されてしまう。
このカドゥ・クワーズの住人たちは全員、小説などの文学作品のようになぜか創造した神の著作権が設定されている。
元人間の魔族であるマイリー達から聞いた話では著作権が移った影響だと思うが、ガリウス神に対して、あたかも自らの創造主であるかのような感情を抱くような状態になっていたらしい。
だが、シーム先生の事例からこの効果を防ぐ手段は明らかになっている。
ジョルジョーネたち、ガリウス神のもとへ行った者たちに対してロランはすでにスキル≪カク・ヨム≫で改稿を施していた。
ある者は能力値を、またある者はスキル変更などを行い、現状の≪著作権≫を、ディヤウスとロランの共著状態にしている。
≪ギルティ・オブ・ブライブリー≫によって書き換えが可能な著作権者は一名分、あるいはディヤウス神だけだと思われるので、この方法でジョルジョーネたちのガリウス神への従属は阻止できるというわけだ。
加えて、その身に宿している≪魔星≫によって、常人にはない精神的抵抗力もあると思われ、むざむざとガリウス神の部下を量産する手伝いをしてしまうという愚は冒していないと思いたい。
ロランは≪魔星≫たちを神の領域まで引き上げ、その彼らにカドゥ・クワーズを管理させようと考えていたのだが、エマニュエルたちのようにガリウスに従順な下僕になられてはその目論見が狂ってしまう。
「いきなり、どうした?」
ヤルダバオート教団の教主アンリ・プッティーノは、かなり驚いたようで、顔を引きつらせながら、こちらを見ている。
「ごめんごめん。何でもない。さあ、とっととヤルダバオート神のところに行こう」
アンリ・プッティーノは、やれやれだと言わんばかりの大きなため息を一つ吐くと、ロランを≪
「さあ、その転移陣の上に乗れ」
ロランは言われるがままに、先に陣の上に乗っていたアンリ・プッティーノの傍らに並ぶようにして立った。
「あっ!」
「今度は何だ!貴様、さっきからふざけているのか?」
温厚そうなアンリ・プッティーノもさすがに二度も驚かされて頭にきたのか、青筋を立て顔を近付けて睨んできた。
「いや、本当にごめん。思い付きでここに来たもんだから、色々と家のこととかそのままにしてきたわけよ。そんなに青筋たててんでもええやねん!真弓くん!」
「何が真弓君だ。その元ネタは知らん!」
そっぽを向くアンリ・プッティーノの顔の向こう側に半透明なメッセージウィンドウが現われていた。
それは、もちろん奴には見えていないようだ。
『総獲得PVが1,000,000を突破しました。スキル≪カク・ヨム≫の熟練度が上がり、DからCに上がりました』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます