第408話 新世界の神

魔丞まじょう≫ヴァルトスをスキル≪カク・ヨム≫で改稿した。


≪プロフィール・リライト≫で、ヴァルトスの≪直近のプロフィール≫を弄り、「リヴィウス神の忠実なるしもべとして」の部分を「ロランの忠実なるしもべとして」に書き換え、念押しで文末に「ロランに対して、如何なる疑いも不満も抱かない。(23文字)」の一文を加えた。


ヴァルトスのステータスはさすが七十二柱の眷属の筆頭であるに相応しく、魔族だった頃の俺を圧倒していた。

だが、荒人神あらひとがみとしての力に目覚めた今、もはや数字の上では敵ではなかったし、そのスキルが戦闘向きではなかったこともあって、戦いになったならばまず負けることはあるまいといううほどに立場は逆転してしまっていた。


わざわざ対立することで殺してしまう愚を繰り返さないためにも、このような方法を取ったわけだが、自分によくしてくれた相手をこうして傀儡のようにしてしまったことにロランは少し罪悪感を感じていた。


だが、根気よく説得したり説明している時間はもう無かった。

事態を収拾し、手を打たなければ多くの血が流れてしまうことになる。



絶対服従となったヴァルトスに、リヴィウス神消滅の事実に関する緘口令を配下に敷かせ、ロランはひとまず≪夜兎族の街≫の天魔宮に戻った。


冥神刻めいしんこく≫を失ったことで、従属化していたメリュジーヌなどの魔族たちがその支配を逃れている可能性があり、気が気でなかったからだ。


「あら、ロラン様。おかえりなさいま……」


入り口付近で庭掃除をしてくれていたフランシスの無事な姿にほっとしつつ、急いでメリュジーヌのもとに向かった。


どうやら≪夜兎族の街≫の街にも変わった様子は無いし、従属化が解けた魔族たちが暴れた様子もない。

クシナやサビーナさんを捉まえて、話を聞くことも考えたが、今は一刻も早く自分の目で確かめたかったのだ。


広い天魔宮の二階にメリュジーヌの私室がある。


「メリュジーヌ!」


ひょっとしたら、戦闘になることもあるかもしれないと気を引き締め、扉を開けるとそこには寝台の上であおむけになっているサビーナの股間に顔をうずめて何かをやっているメリュジーヌの姿があった。


「あら、ロラン様。今、お帰りですか」


メリュジーヌはその長い舌から糸引く何かを手で拭うと何事かといった様子でこちらを見た。


「メリュジーヌ、何か変わったことはなかった? 」


「変わったこと?いえ、行為に没頭しておりましたから。何かあったのですか?」


「あっ、いや、何にも無いならいい。ちょっと、へその下見せて」


ロランは、ぐったりしているサビーナとメリュジーヌがいる寝台に近づき、従属印を確認した。


八匹の蛇が絡み合い円形を成しているような形の刻印。


以前は黒一色だったのだが、今は八匹の蛇に個別の色が割りふられ、カラフルになっていた。


形も少し変わってファンシーになった気もするが、業奪戦ごうだつせんに勝利した後、メリュジーヌの下腹部に浮かび上がったこの従属印は、冥神刻めいしんこくが失われたにもかかわらず、そのままそこにあった。


「ロラン様、変わったことなら、今ひとつ気が付きました。久しぶりにあったからでしょうか。なぜだか無性に、ロラン様が愛しく思えて……」


メリュジーヌが抱き着いてきて、そのまま広い寝台に誘われた。


「ああ、ロラン様。あなたは、私の神にも等しいお方……」



あとで、K・Yカク・ヨムアヴァターに確認を取ったのだが、人神従刻じんしんじゅうこくなる固有能力が、≪冥神刻めいしんこく≫と同様の効果をもたらしているらしい。


荒人神あらひとがみとして覚醒した際に、≪冥神刻めいしんこく≫を通じてリヴィウス神の権能の一部を自らの力の一部として取り込んだらしく、魔族及び人族を従属させることができるようになったようだ。


人神従刻じんしんじゅうこくの対象になった相手は、精神力による抵抗をすることができるが、それがかなわなかった場合、荒人神あらひとがみロランの力の加護下に入ると同時に、望んで自ら支配されたいと願うようになる。


メリュジーヌが今、俺に抱いている感情は、かつてリヴィウス神に向けられていた敬神であり、愛慕の情が加わったものだと思われた。


この人神従刻じんしんじゅうこくとスキル≪カク・ヨム≫。


このふたつを上手く使えば、リヴィウス神消失後の魔族たちを混乱と破滅から救い、人と魔が共存できる新しい世界を創り出すことができると、K・Yカク・ヨムアヴァターの説明を聞き終えた俺は確信した。


俺がこのカドゥ・クワーズを変革し、「新世界の神」になる。







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