第407話 レクイエム
「神は死んだ」という言葉で有名だったのって、ニーチェだったっけ?
たしか近代化・産業化・科学化の中で、宗教的・哲学的観念の滅亡を宣言したみたいな意味だったと記憶しているが、本当に目の前で神が死んだ。
生粋の地球生まれ地球育ちの異世界転生人である俺にしてみれば、そもそも神様って存在しているのかしていないのか、地上で普通に生きている人間にはわからない
それゆえに、このカドゥ・クワーズの世界の神のように肉体を持ち、自らの創造物たる魔族や人族と直に対話したり、暮らしたりなんていうことは俺が考える神の姿からほど遠いものだった。
俺に言わせれば、リヴィウスたちは、人知を超えた力を持つ超越者ではあっても、概念的な本当の意味での「神」ではないと思う。
≪
だが、この不完全ともおもわれる神たちに
信奉していたリヴィウス神が目の前から忽然と消え、まるで大都会の真ん中に置き去りにされた子供のように慌てふためく眷属とその配下の魔族たち。
ロランはその様子を眺めながら、如何にこの場を切り抜けるか思案していた。
この場にいるヴァルトスたちは目の前で消えたという体験を伴っているから、動揺が激しいが、エゼルキア国内の他の闇の者たちの様子はどうなっているだろうか。
ヴァルトスたちの話では、リヴィウス神に創造された魔族の流れをくむ者たちは漠然とだが、その存在の喪失を感じ取ることができているらしい。
リヴィウス神が消滅したことによる動揺がエゼルキア全体に波及することは時間の問題であり、避けられない。
精神的な支柱を失った魔族たちの不安は日増しに募るであろうし、≪
神による支配と秩序の崩壊。
ロランは自分がしでかしてしまったことの重大さに内心震えた。
「おい、顔色が悪いが大丈夫か?」
背が高く、すらりとした体形のヴァルトスが、その思慮深げな銀の瞳でこっちを見つめている。
後ろで束ねた長髪と気品ある髭が、なんとも賢そうな印象を与えるこの男ではあるが、さすがに動揺は隠せないようで、今のところ、俺をリヴィウス殺害の犯人だと疑ってはいない。
だが、脳筋が多い魔族の中で、真実に最初にたどり着く者がいるとするならば、このヴァルトスであることは間違いなかった。
今は冷静さを失っているが、時と共に普段の頭脳明晰さを取り戻したのなら、きっと……。
ロランは、ヴァルトスをスキル≪カク・ヨム≫の対象として認識し、心の中で「スキル、カク・ヨム!」と唱えた。
リヴィウスと共にやって来たのがこのヴァルトスで良かった。
この場にいるのが、そのヴァルトスの配下たちで良かった。
この≪
予定とは全く違うものになってしまったが、俺が
よし、これしかない。
リヴィウス神の消滅の真相には、誰もたどり着かせない。
それが、俺のスキル≪カク・ヨム≫・レクイエムだ。
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