第406話 だって、もう……

この≪無明一閃むみょういっせん≫って、何分溜めればいいんだろう。


K・Yカク・ヨムアヴァターの頭上のタイマーを確認してみると、時間はまだ五分くらい残っている。


指先に集まってきている人間光じんかんこうは、とにかくコンパクトに圧縮されているため、どれくらいの威力まで高まっているのか、いまいち体感ではわかりにくい。


たしか、ピッ〇ロさんが主人公とその兄貴に向かって打った時はかなり時間がかかっていた気がした。


アニメで見たせいかな。


すんごいタメが長かった気がした。


まあいっか。避けられると元も子もないから、時間停止が解除されるギリギリまで溜めてみようか。


相手は神だし、ヘロヘロな技では鼻で笑われてしまう。


「0.00.05」

タイマーの残り時間五秒前。


ロランは、地上の者たちを巻き込まないように、空中のリヴィウス神の真正面に移動し、人間光じんかんこうを集束させた人差し指と中指を向けた。


「魔貫光〇砲! じゃなくて、≪無明一閃むみょういっせん≫!!!」


それは一瞬の出来事だった。


指先から放たれた人間光じんかんこうは、ロランの予想をはるかに上回る勢いで放出され、レーザー光線というより、波動砲みたいな勢いだった。


どこが一閃やねん!


「うわっ、ちょっと待った!」


そうは言ったものの、発射後にキャンセルはできないようだった。

しかも射出速度が異常に速く、もし自分に向けて撃たれたとしても避けれたかどうか。


右肩辺りを狙って、戦闘不能にし、力を認めさせるはずが、完全に予想と異なる威力だった。


そして、もしもはないのだが、あと少し練習して使いこなせるようになっていたのなら、放出の形をもっと引き絞ってレーザーのような形状にもできたとは思う。


使用後の疲労感は無いが、かなりブルーな気持ちになっているのは人間光じんかんこうを消費したからか、それとも生じてしまった結果によるものか。



無明一閃むみょういっせん≫が直撃したリヴィウス神の姿は一瞬で搔き消えてしまい、呆然自失の状態で時間停止状態が解除になった。


また、やっちまっただ。


じっちゃんの名に懸けて誓うが、本当に、本当に、殺す気はなかった。


まだ聞きたい事もたくさんあったし、何より結構お世話になったこともあって、嫌いではなかった。


今後も、俺のパトロンの一人になってもらうはずが完全に予定が狂った。


K・Yカク・ヨムアヴァター、この野郎!

こんなにやばい威力だったら、やばい威力だって教えてくれたらよかったのに。


『威力については私も把握していませんでした。過去に使用したデータがありませんでしたので。「チュートリアルモード1」を終了します』


K・Yカク・ヨムアヴァターはまるで逃げるようにそそくさと消えた。



消えて逃げれる奴はいいな。

この状況、どう始末をつけるんだ。


時が動き出し、地上からこの戦いを見守っていた人々が動き始めた。


リヴィウス神の消滅から5秒経ってから、時が動き出したので、消滅の瞬間は俺以外誰も見ていない。


皆の目には突然、リヴィウス神が消えてしまったように映ったはずだ。


つまり、俺は重要参考人ではあっても、まだ被疑者だと断定されてはいない。


ロランは酷い喉の渇きと罪悪感からくる震えを必死で抑えながら、極力、平静を装い、地上のヴァルトスたちの目の前にゆっくり降りて行った。


「ロラン、リヴィウス様は一体、ど」

「リヴィウスはどこに消えたー!」


戸惑い、疑問を口にしたヴァルトスにかぶせ気味に疑問をぶつけてるをした。


それはまるですかしっ屁を誤魔化す時のようだったが、自分もあたかも被害者であったかの如く振る舞う。


「えっ、いや、お前もどうなったかわからないのか」


「気が付いたら消えていた。自分から戦いを仕掛けておいてどういうことだ。俺より付き合いが長い、ヴァルトスなら何か気が付いたんじゃないのか?」


あくまでもしらを切る。切りとおす。


ロランは背中に冷たいものが一筋流れるのを感じながら、それを表情に出さぬように、全集中した。


ロランの切れ気味の質問をぶつけられたヴァルトスに皆の視線が集まる。


「……逃げたとは考えられない。何より、これを見よ。我が手のひらに刻まれていた≪冥神刻めいしんこく≫が消えている。そして、リヴィウス様の存在が地上のどこにも感じられない。リヴィウス様により創り出された魔族の末裔である我らには、その創造主たるあのお方の存在がどこかにあるということを感じ取れるはずなのだが……」


そうなのか。

俺はディヤウスによって創られた人族として生まれたはずだけど、そんなの感じたことないけどな。


魔族と人族は仕様が違うんだろうか。


「ヴァルトス様、俺の≪冥神刻めいしんこく≫も消えてます」

「私のもです」


二人の側近がそれぞれ自らの身に≪冥神刻めいしんこく≫が刻まれていたらしい箇所を見せに近づいてきた。


同じ72柱の眷属なので顔は見覚えがあるが、……名前はちょっと忘れてしまった。

魔丞まじょう≫を心から慕っており、領主になることを望まず、自ら志願して側近の身分に納まっているとか言う事情だったと思う。


ヴァルトス率いる配下たちの動揺は顕著だった。

あの統率されたこれまでの様子とは異なり、天を仰ぎ不安を口にしたり、落胆したりしている。

周囲を懸命になって見渡す者もいるが、見つかる訳もない。


だって、もう消滅してしまったんだから。






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