第402話 ドゥーユゥーアンダスタンンンンドゥ!

「……やはり我が目に狂いは無かったようだな」


リヴィウス神の口調が変わり、柔和だった表情が威厳あるものに変わる。

ギドが下がり、主神格のリヴィウスが現われたようだ。


「ロランよ。お前の言う通り、探り合いはもうやめるとしよう。お前の言う通り、我はお前を我が目の代わりにすべく、眷属としてわが陣営に引き入れた。そしてロランよ、お前は期待以上の働きをした。その事についてまずは礼を言っておこう」


「礼なんかもらっても嬉しくないね。俺がエロいことしたり、調子に乗っているさまを全部見られていたと思うと最悪の気分だ。俺が心の底からお前に従って無かったことや≪カク・ヨム≫についてもだいたい把握しているんだろう」


「我は最初からお前に忠誠など求めてはいなかった。だが、思いのほかギドとはうまくやっていたようであったし、眷属としての務めは果たしてくれていたな。我らの関係はおおむね良好であったと言っても過言ではないのではないか」


「俺もあんたのことはそんなに嫌いじゃないし、敵対する意思は今のところない。けど、誤魔化さないでほしいな。俺は≪カク・ヨム≫について聞いているんだ」


「それについては逆に我が知りたいところだ。お前に何か不思議な力が備わっていることは、冥神刻めいしんこくを通して気が付いていた。だが、解せぬ。神たる我をしても、時折、お前の行動を見失うことがあった。まるで時が止まっていたかの如くにな」


やはり、共有できるのは視覚だけではないようだ。

あえて≪カク・ヨム≫の名前を出してカマかけたけど、それを聞き返してくる様子もないし、少なくとも聴覚は共有されていたと考えるのが自然だ。

向こうも「時が止まって」のくだりは探りを入れてきている可能性が高いし、腹の探り合いは止めようと言ったのは自分だが、どうしてもこういう展開になってしまうのは仕方がないだろう。


さて、なんと答えるか。


「……まあ、よい。簡単に手の内を明かすそなたでもあるまいからな。それでお前の望みは何だ。何のために戻って来たのだ。我に従いもせず、争う気も無いというが、お前の目的は何なのだ」


「いや、それなんだけど、このまま今まで通りにエゼルキアに住ませてもらえないかな?ただし、官職と爵位は返上するから、ただの住人として」


「わからんな。どういうことだ?」


「民間人として普通に暮らさせてほしいって言ってるんだよ。エゼルキアにはもう俺の家族もいるし、移住しようにも魔族が堂々と暮らせる国は他にはまだないでしょ。だから、そのまま夜兎族の街の住民としての居住権と移動の自由を認めてほしい。エウストリアにももう一つの家族があるから、勝手に行き来するけど、その度にこういった大騒ぎになるようでは困る」


「……何とも虫が良い話だが、それを認めることで我に何の得がある?」


「俺を敵に回さなくて済む」


ロランの言葉に≪魔丞まじょう≫ヴァルトスの配下たちは一斉に警戒を強め、それぞれ臨戦態勢を取ろうとした。


「もし拒絶するなら、力ずくでここを押し通り、一族郎党を引き連れてエゼルキアを出ていく。だが、よく考えてみてほしい。お前が俺を通して見ていたとおり、教皇庁は千に迫る廻天屍かいてんしの軍団を失った。あれらは二千年かけて、お前たち闇の勢力に対抗すべく用意していた切り札であったらしい。切り札を失った教皇庁はおそらく大きな痛手を受けたであろうし、その影響はこれから出始めると思う。拮抗していた現状の光と闇のバランスが崩れ始める」


「何が言いたい?」


「つまり、俺と対立していたずらに自勢力を消耗させるより、俺を味方に引き入れておいた方が得なんじゃあないかと思うわけ。教皇庁みたいに大損害受けたくないでしょ。自分で催促するようで悪いけど、廻天屍かいてんし軍団を壊滅させてやったお礼に、客分として俺を歓迎し、今まで任されていた領地ごと俺にプレゼントしてくれちゃってもいいんだよということを言いたいわけ。ドゥーユゥーアンダスタンンンンドゥ!」


あれ、なんか変なテンションになっているのかな。


タカハシフミアキみたいなあおりを口走っちゃった。

言った後で、恥ずかしくなった。


自分で言っておいて何だけど、ジョ〇ョ第三部のアンダスタンンンンドゥって何だろう。

ネイティブの発音ではそんな感じなのかな?


「おのれ、言わせておけば!ヴァルトス様、このようなふざけた輩を許してはおけません。攻撃の許可を!」


魔丞まじょう≫ヴァルトスの側近がさすがに我慢ならない様子で前に出ようとした。

この場にいる他の魔族たちも同様の気持ちであるらしく、彼らの魔闘気が一層たかぶりだした。










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