第四章 異世界プルルン滞在記
第280話 見知らぬ、天井
「知らない天井だ」
目が覚めて最初に飛び込んできたのは見覚えのない天井だった。
ウソン村の生家、リグヴィールの居城、カルカッソンの別邸、学生寮、どことも違う。
人為的に削られたと思われるむき出しの荒々しい岩肌がそのまま天井になっている。
「ロランさん、ロランさん! 大丈夫ですか? 」
身を寄せ、声をかけてきたのはサビーナだった。
「もう三日も意識を失っていたんですよ。本当にもう……駄目かと思いました」
そう言ってサビーナは涙を溢れさせた。
サビーナは鎧やその下に着る衣服をつけておらず、なぜか下着姿だった。
豊かな胸元と引き締まったくびれが相変わらず美しい。
目のやり場に困る
そうだ、俺はクー・リー・リンのやつに崖から落とされたんだった。
そのまま川で溺れたところまでは記憶にあるがその先がわからない。
ロランはゆっくりと体を起こし、周囲を見回した。
岩盤をくりぬいて作ったような坑道のような空間に鉄格子がはめ込まれており、床には見たことのない大型獣の毛皮が敷かれていた。
あれ?
そう言えば、俺の体はどうなったんだろう。
ふと気になって自分の体に目をやると、八つ首の蛇を思わせるあの魔神紋は消えており、髪色も前髪を見る限り、元の赤みがかった金髪に戻っていた。
あんな見るからに悪そうな見た目ではカルカッソンに戻っても自分だとわかってもらえないかもしれないし、下手をすると迫害までされそうである。
元に戻れて本当によかった。
「サビーナさん、ここってどこなの? あれから一体どうなったのかな?」
ロランの質問に、ほっとした様子のサビーナが順を追って説明してくれた。
谷底に落ちて溺れていたロランを助けてくれたのはやはりサビーナだった。
革の胸当てや衣類などをその場で脱ぎ捨てて、川に飛び込み、必死でロランの姿を探してくれたらしい。
崖から川の水面までは相当な高さがあり、躊躇せずに助けてくれたのは本当に頭が下がる思いだった。
川底から引きあげた時には、ロランの意識は無く、そのまま二人は下流に向かって流された。
谷を抜け川幅が広がったところで岸に上がり、冷え切った体を焚き火を作って凌いでいたところ、やってきた見知らぬ集団に囲まれ、この石牢に閉じ込められたのだという。
その集団が身に着けていた服装はエウストリアではみない恰好で、手に弓や短槍などを持っていたことから猟師か何かではないかとサビーナは予想を口にした。
「抵抗はしなかったんだ?」
「ええ、言葉が通じるようでしたし、驚いた様子ではありましたが敵意のようなものは感じませんでした。抵抗しなければ危害は加えないということだったので……」
「それで、この牢屋に閉じ込められちゃったのか」
「ごめんなさい。ロランさんを守りながら逃げるのは無理そうだったから……。でも、食事は三度、しっかりちゃんとしたものを運んでくれていますし、私たちが寒くないように毛布も持ってきてくれたんですよ」
どう考えてもピンチだと思うが、サビーナは人が良いというか肝が据わっているというか。
「おい、その小僧、目を覚ましたようだな」
誰かがこっちに近づいてくる。
手に持っているランプの灯りでその姿が徐々に明らかになる。
上半身半裸で筋骨隆々。
体には黒い刺青ののような模様が入っていて、腰には毛皮で作った腰巻のような物を身に着けている。
腰には反った形の曲刀を下げており、なかなかに強そうな見た目だ。
黒髪黒目でエウストリア王国にはあまりいない人種だが、クー・リー・リンのように東洋人に近い顔立ちではない。
彫りが深く、目鼻立ちははっきりしている。
「族長と長老方がお呼びだ」
まるで蛮族を思わせる風貌のその男は、ぶっきらぼうに短くそう言った。
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