第277話 戦闘経験の差?

ロランの肉体を代わりに操作する高橋文明と魔蟲王フージョガの戦いは、当初は互角に見えた。


魔蟲王フージョガが肉弾戦に持ち込もうとするのを、高橋文明は魔闘気を上手く使い、いなしつつ反撃をする。


しかし、両者の均衡は突如崩れ始めた。


スタミナ切れなのか、他に理由があるのか高橋文明の動きに精彩が無くなり始め、やがて防戦一方になった。


そして、魔蟲王フージョガが空中に逃れた高橋文明の一瞬の隙をつき、そのさらに頭上に移動するとその長く太い前足を叩きつけてきた。


完全にその姿を見失っていた高橋文明は、その一撃を無防備な状態で受けてしまい、地面に叩き落とされてしまった。


渓谷の崖際近くの地面に激突し、その衝突部分を大きく窪ませた。


「クソッ、こんなはずじゃなかったのに……」


高橋文明は勝ち誇った顔で空中から見下ろす魔蟲王フージョガを睨んだ。


「ギッ、ギッ、ギッ。勝負ありだな。タカハシフミアキよ。その幼さでよくやったと褒めてやるぞ。だがいかんせん、戦闘経験の差は歴然だ。如何に強力な魔闘気と身体能力を持っていても、キサマの動きは素人そのもの。闘いの何たるかを知らん」


そうか、近接戦闘に持ち込まなかったのは虫に触るのが嫌だったからではなく、どう戦ったらいいかわからなかったのか。


「だが、その才は殺すには惜しくなってきたところもある。どうだ? 我が軍門に降るなら命だけは助けてやってもいいぞ」


「少し……考えてもいいか?」


高橋文明の言葉に魔蟲王フージョガの表情が緩んだ。


「構わんぞ。我ら闇の眷属は先の神々の大戦おおいくさでその数を大きく減らしてしまった。お前のように有望な魔王種であれば大歓迎だ。偉大なる我らが主、三貴神の方々も大いに喜ばれることだろう」


「降伏した場合はどういう待遇になるんだ?」


「待遇か。おぬしのほどの力であれば一軍を任されるのは間違いあるまい。我らがあの忌々しい盗人ども……人族から世界を取り戻した暁には、一国を与えられることも十分にあり得るであろうよ」


「一国の主か……、悪くないかもな」


おいおい、まさか降伏する気か?


一瞬焦ったが、高橋文明がまだ戦意を失っていないことに気が付いた。


何かやる気だ。


高橋文明は、その背から凝縮させた魔闘気を出し、その接している地面のはるか下を静かに掘り進みながら何かをしている。


地下に送り出している魔闘気はかなりの量で、まるで火山のマグマ溜まりのようになっている。


「ワシからもリヴィウス様にお前の待遇については一言申し添えてやる。ともに≪魔世創造主≫アウグス様の完全復活のため、尽力し、手柄を……」


魔蟲王フージョガは諭すように語りながら、ゆっくりと地上に降り始めた。


「油断したな。誰がゴキブリ野郎の仲間などになるか!≪背接地魔溜放射アース・ジェ〇ト≫!」


高橋文明が突然、頭上の魔蟲王フージョガに向かって両の掌を突き出した。


激震!


凄まじい大地の揺れと同時に高橋文明の背面の地下に溜まっていた魔闘気の塊が逆流し、勝利を確信しきった顔の魔蟲王フージョガに向かって放出された。


まるで大蛇おろちを思わせる魔闘気の奔流が、羽を広げホバリング状態で降下中だった魔蟲王フージョガの全身を捉える。


「グオォッ、卑怯な……」


高橋文明の放った魔闘気の威力はすさまじく、魔蟲王フージョガの全身は軋み、やがてその圧力に耐え切れなかったのか、粉々に砕け散った。


「へっ! きたねえ花火だ……」


高橋文明も全ての力を使い果たしたのか、そう吐き捨てると気を失った。



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