第275話 これも邪魔だな

「中からずっと見ていたが、お前良い身体してるな。処女じゃないから、結婚はできないが愛人か奴隷になら、してやってもいいぞ」


やべえ、生まれて初めて触った女子のおっぱいの感触に動揺して、変なこと口走ってしまったかもしれん。


サビーナはなぜか何も言わないし、なんか、俺を見る周りの目が微妙な気がする。


前世の高橋文明の記憶にあった秘蔵のアダルトDVDの知識では、この手のマゾっけある女の子にはこんな感じになじった方が良いんだ……よな?


とにかく童貞だということだけは誰にも悟られるわけにはいかない。


前世の自室の押入れの中にあった衣装ケースの洋服の下に隠してあった大量のアダルトDVDから得た知識を総動員して何とか演じ切らなくてはならない。


これは最重要ミッションだ。

よくわからないが、ヤリチン感を出していくぞ。


ビクビクするな、俺。


ロランが主人格の時の俺は、ロランの目や耳を通して、ある程度の状況を見守ることはできたが、肉体から伝わってくる情報には制限があった。



「ああ、これが外の世界シャバか……」


≪ギルティ・オブ・ブライブリー≫によって、高橋文明の記憶と心の闇をベースにして生み出された新しい人格である俺にとってすべてが新しく、輝いて見えた。


頬を撫でる風、口中に広がる血の味。

全てがリアルだった。


それに今も尚、手に残るサビーナの乳房の感触。


こんなん、好きになってまうやろ!


顔もバッチリ好みだし、容姿は何というかシルエットがきれいで、女性らしさを残しながらもほどよく鍛えられた感じがとてもエロい。


だが、処女でなかったのだけが非常に残念だ。

たとえ、オークと言えども俺以外の男を知っているなんて許せない。

他の男との経験がある女は、きっと俺としている時にも比べて色々評価しそうだし、どこか汚らわしい感じがある。


処女こそ至高。


結婚する女は、無垢で清純な処女に限ると俺は決めているのだ。



「ギッ、ギギギッ。小僧、貴様、魔族だったのか?しかもその額と手に見る魔神紋は、最上位魔族の中でも限られた種の……」


おっと、感慨に浸っている場合ではなかった。

ゴキブリ野郎が話しかけてきた。


人間の体から俺仕様の体に作り替えを急がなくてはならない。

ロランの馬鹿が受けた傷を治しながらだから、もう少し時間がかかる。


闇を全細胞に行き渡らせ、損傷した筋肉や骨、神経細胞を修復しながら、細胞自身の目覚めを待つ。


「ロ、ロラン。生きてたんだな。私は信じていたぞ。生きててよかった」


クー・リー・リンとかいう黒ハゲが馴れ馴れしく話しかけてきた。


「俺はロランではない。深淵の闇より現世に解き放たれた≪天魔王≫高橋文明たかはしふみあき様だ。この地上の全てに君臨する絶対的支配者。神も人も我が前にひれ伏せ!」


くぅ、決まった。

これは絶対カッコよかっただろう。


とにかく、もう少し会話をして時間を稼がなくてはならない。


「タカハシ……フミアキ。聞いたことのない名だ。しかし、魔神紋を持つからには我らと同じ闇に属する者であろう。敵対する理由は無いはずだ。先ほどの百七魔星の男はともかくとして、貴様はなぜ光の陣営に与する?」


「俺は闇にも光にも与するつもりはない。天上天下唯我独尊。唯だ、我、ひとりとして尊し。神も、魔も、人もただ我が前にひれ伏すのみ」


前世の貧弱な高橋文明と違い、これだけの力が今の俺にはあるのだ。

ありとあらゆる存在にマウントしまくってやる。


「不遜な奴……。我らが主≪魔世創造主≫アウグス様に従う気はないというのだな?」


強烈な敵意がゴキブリ野郎からこちらに向けられてくる。


肉体の損傷はほぼ回復した。

闇の浸食率は七割ほどか。

まあ、十分だな。


高橋文明は、剣聖の弟子の証が刺繍されたズタボロの上着を引きちぎり、上半身を露わにした。


引き締まり筋肉が発達した背中には、蠢く闇と八つ首の蛇を思わせる魔神紋が現われていた。


「これも邪魔だな」


高橋文明は無造作に頭の周りに仕掛けられた≪緊箍禁縛輪きんこきんばくりん≫を魔闘気を帯びた手で引きちぎる。


緊箍禁縛輪きんこきんばくりん≫は跡形も無く消滅し、代わりに高橋文明の全身から圧倒的な量の魔闘気があふれ出した。







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