第268話 脅威襲来!
強烈な魔闘気を身にまとったその存在が、ロランたちのところにやって来るまでにそれほどの時間は要しなかった。
上空の小さな黒点だったそれは、あっという間に大きくなり、ロランたちのすぐ目の前に着陸した。
にわかに突風と土埃が巻き起こったが、巨体の割に着地音は小さかった。
その姿にはどこか見覚えがあった。
光沢を放つ外皮、扁平な楕円形の体、そして長い触覚。
黒い悪魔とも称されるその姿にロランは身震いした。
「ゴ、ゴキブリだ……」
しかもマイクロバスぐらいの大きさで、強大な魔闘気まで放っている。
虫というだけでも気持ち悪いのに、よりにもよってゴキブリかよ。
あのぬめぬめした感じが駄目なんだよな。
よくよく観察してみると人間のような目玉が八つもついていたり、足の本数が四本だったりするので前世にいたそれとは異なる。
そして、気が付くとどうやってこの場に来たかわからないがもう一人、その魔闘気を纏ったゴキブリの横に若い優男風の男が立っている。
見たところ、若返ったシーム先生よりも少し上くらいの年齢だろうか。
その理知的で整った顔立ちに穏やかな笑みを浮かべ、ぱっと見は善人そうに見える。
となりの異世界ゴキブリのように魔闘気をまき散らしてはいないし、威圧感もない。
物静かで、まるで教会の神父さんやお坊さんを思わせるそんな佇まいだった。
「
突然、異世界ゴキブリがそのよく発達した大あごからくぐもったような声を上げると、ゴキゴキ、ベキベキと異様な音を放ちながら肉体を変容させ始めた。
昆虫のような手足が黒光りする人型のものに変わり、その胴体が折りたたまれ、組み替わって別の何かに変貌していく。
まるで昔見た自動車や恐竜が人型ロボットに変身するアニメーションのようだった。
異世界ゴキブリが変身したのは光沢ある黒鎧を着た巨漢の騎士の姿だった。
ただ、目は八つ。頭部に長い触覚をつけた異形の騎士だ。
「ギッ、ギッ、ギィ。リヴィウス様。汚らわしい聖光気の気配を感じてわざわざ来てみれば、とんだ小物。無駄足でしたな」
異形の騎士が傍らの優男風の人物に語りかける。
おい、今こいつ、リヴィウスって言わなかったか?
このちっとも強そうに見えない奴が三悪神の一人なのだろうか。
あの頭の悪そうな
「
ゆっくりと心の底に響いてくるような、低く落ち着いた声だった。
その声の主である優男に、何回りも体が大きい魔蟲王フージョガがぺこぺこしている様子がやけに滑稽だった。
あの優男からはまったく脅威を感じないのだが、本当にリヴィウス神なのだろうか。
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