第245話 最後の仕上げ
「最後の仕上げをせねばならん」
シーム先生はそう言うと女たちが隠れている横穴に向かって歩き出した。
「シーム先生、何をする気ですか?」
この爺、まさか戦闘が終わってすぐに女性たちに手を出す気じゃ……。
相手は六人。
まさか一度に手籠めにする気じゃないと思うけど、無類の女好きであるシーム先生ならやりかねない。
「悪いがロラン。その辺にある木桶や
「何に使うんですか?」
「子供には少々見せられんことをやる」
「いくら先生でも傷心の女性たちにさらに酷いことをするなんて許せませんよ。先生の頭の中には交尾しかないんですか?」
「ふう、ロランよ。お前は儂を何だと思っておるんじゃ。いくら儂でも悲しみに暮れる女性たちを襲ったりはせん。ただ、オークの仔を
ロランの言葉にシーム先生は少し傷ついたのか、悲しげな瞳だった。
「……早合点しました。すいません。この季節だし、お湯も沸かしておきます」
シーム先生と前に野宿した時に火の起こし方は教わってあるし、カルカッソンを出る前に着火のための道具は購入してある。
衛生面からしても生の沢水よりお湯の方が良いだろう。
「うむ、頼んだぞ」
ロランは水の流れる音を頼りに沢を探し、まず水汲みを終えると火起こし、焼いた石を使ってお湯を沸かした。
しばらくするとシーム先生がやってきて、「終わったぞ」と声をかけてきた。
「二人、仔を宿しかけておった。あの女騎士は月のものだったおかげもあって大丈夫じゃったが、相当精神を病んでおる。男の儂が触れようとすると暴れて手に負えんから、しばし気を失ってもらった。しばらくは目が離せんぞ」
シーム先生は少し疲れた様子で、ロランが出した手ぬぐいと湯が満ちた水桶を二つ持ち、横穴に戻った。
その後、ロランはひとっ走り
登って来た時と異なり、クー・リー・リンのペースに合わせなくても良かったのであっという間だった。
オーク族の集落に戻る道すがら、ロランは考え事をしていた。
やはりお腹に宿したオークは産ませてはいけなかったのだろうか。
女の人にしたら、生まれてくるのがオークだとしても自分の子供であることには変わりない。
子供を奪われたとシーム先生を恨むことは無いのだろうか。
どうするのが最善なのか言い切れない自分がいた。
それほどにこの問題の本質は重く、深い。
ロランは自問自答していた。
いや、しかし、待てよ。
産ませてどうなる?
どの道、生まれてきたオークは大人になり同様の悲劇を繰り返すに決まっているじゃないか。
そうなる前に殺すのであれば、今処置してしまった方が被害が少ない。
それに、産むことで彼女たちの人生に多くの困難が発生する。
魔族の子を生んだということで、周囲の差別があるだろうし、場合によっては処罰されるなんてこともあるかもしれない。
人も魔族も命に変わりはないのではないかと考える甘っちょろい自分は、未だ前世の世界の価値観に縛られているのだろうか。
人と魔が交差する世の訪れ。
なぜか、アニエスが語ったディヤウス教の聖書の一節が浮かんだ。
人族と魔族。
共存できないのであれば滅ぼし合うしかない。
この両者は絶対に相容れないものであるとシーム先生は考えているようだったが、目の前で悲しむ女性と人を子供を産ませる道具としか見ていないオークを実際に目の当たりにすると反論することは出来そうもない。
俺だって、女の人の涙をこれ以上目にするのは嫌だ。
あの美しい女騎士。
たしかサビーナだったか。
強く気高い騎士であったであろう彼女があのような状態になるまで繰り返された凌辱。
眼は生気を失い、顔は酷く青ざめていた。
あの傷つき壊れそうな彼女のために何か自分にできることは無いのだろうか。
オークたちの粘液に汚された、程よく鍛えられた魅力的な裸身を思い出してしまい、慌てて頭を振って劣情と邪心を追い払う。
馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿、俺の馬鹿。
こんな時に不謹慎すぎるだろ。
これではシーム先生のことを言えないではないか。
そのようなことを考えているとオーク族の集落にあっという間に着いてしまった。
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