第244話 大・明・拳

ロランはクー・リー・リンのスキル名称呼しょうこの瞬間、地に顔を伏せたので、光源を直接見ずに済んだ。

それでも、辺りの風景が白く輝いて見えるほどの光だった。

とても直視などできそうにない。

そして、この場所まで届く熱。

暖かいのではなく、暑いのだ。


「ぐおお、何だこの忌々しい光は!や、焼ける。それに……、体に力が入らん……」


オーク・エンペラーの苦しそうな声が聞こえ、何か大きいものが地面に落ちた音がした。

音の感じから、落下したのはクー・リー・リンの体だろう。


「ブヒイ、ブ、ヒィ」

「ヤケコゲルブヒッ、ヤキブタニナッチマウブヒッ」

「ピギッー、ピギッ!」


「くぬう、リーの奴め、使うなら使うと合図くらい出さんか。それにこの光、何度浴びても不快極まりないな」


豚小屋の中にいるのではないかと錯覚を起こしそうな悲鳴の中、シーム先生の苦々し気な声もとなりから聞こえた。

どうやら、シーム先生にまでほんの少し効いているようである。


シーム先生とクー・リー・リンは示し合わせていたわけではなかったのか。

破門にするというシーム先生の言葉をクー・リー・リンの奴が都合よく解釈しただけだったのかな?



光の強さと反比例して、効果時間はやはり短いようだった。

およそ三十秒。


白みがかった風景が元に戻ったと同時に周囲の様子を確認して愕然とした。


クー・リー・リンを抱えていたオーク・エンペラーはその部分を中心に醜く焼けただれており、目の辺りを押さえて悶え苦しんでいる。


少し離れた場所にいたオーク・ジェネラルも火傷を負っており、オークに至っては重症の様子だった。


皆一様に視界を奪われており、焼け焦げ苦しむさまはまさに地獄絵図のようであった。


なんだ、≪大・明・拳たい・めい・けん≫って滅茶苦茶、強スキルじゃないか!

これって、ひょっとして魔族に対する特効ついてるのかも。


シーム先生は特にダメージを受けた印象は無かったが、少し眩しそうにしていた。


クー・リー・リンは力を使い果たしたのかぐったりと地に伏したまま、動かない。


「世話がかかる奴だな……」


クー・リー・リンの身柄を再び押さえられてはかなわない。

注意を自分に向けつつ、隙をついて避難させなければ。

ロランは目の前の小剣を拾うと小走りで跳躍しオーク・エンペラーの左足の膝の部分に、それを突き刺した。

気のせいかもしれないが、小剣の刃先が淡い黄金色の光を帯びている気がした。


「ぐおお、おのれ!」


オーク・エンペラーに突き刺した傷口からしゅうと音がして、少し妙な感触だった。


視界を奪われているオーク・エンペラーは闇雲に両腕を振ってきたが、ロランはそれを余裕で躱すとクー・リー・リンの服の後ろのところを両手で掴むと、一気に後方に飛び退すさった。


≪堕天≫後に得た『筋力:29』は並の騎士以上の数値なのだがやはり、子供とは言え意識のない状態の人間を引っ張るのは思った以上に難儀だった。


勢いを借りた乱暴な助け方になったので、目が覚めた後であちこち痛いということがあるかもしれない。


小剣によるダメージで、膝に力が入らなかったのか、オーク・エンペラーはそれを追おうとしてバランスを崩し、転倒した。



「さて、形勢は逆転したわけだが……、少し話でもするか」


シーム先生は、オーク・エンペラーの前まで歩み寄り全身に強烈な魔闘気を纏った。


「ブヒィ、そんな……まさか、この苛烈な魔闘気は。お前、いや貴方様はまさか上位の闇の眷属に位置するお方で? なぜそのような人間の振りなどしておるのですか」


「そんなことはどうでもいいことじゃ。質問に答えよ。お前たちは古の神々の大戦における生き残りじゃな?」


「は、はい。何でも従いますゆえ、どうかワシの命だけはお救いください。憎きディヤウスの奸計かんけいにより、≪魔世創造主ませいそうぞうしゅ≫たるアウグス様が敗れたと知らされて間もなく、この地上に七色の光が降り注ぎました。ワシら魔族の体は石に変えられ、解放されるまでに気の遠くなるような年月を要しましたのでございます」


「アウグスの奴は本当に復活したのか?」


「いえ、我らは雑兵にすぎぬオーク。下々の魔族にはそこまでのことはわかりませぬが、ただワシらの石化が解けたということは、そういうことなのでは?」


「そうか、何も知らんということか。では最後に聞くが、封印を解かれてから生まれたオークはいるか? ここに居るオークで全員か?」


「新しく生まれた子はおりません。封印を解かれてからまだ時が浅く、この場にいる者たちで全てでございます。他の群れのオーク族のことはわかりませんが我らの一族はこれから仕込もうとしていた所でして、近隣の村々の位置を調べつつ、子供を産ませる雌壺を探し回っていたところでございます。何せ、我らが封印されていた間に、貴重な家畜でもあった人族がたくさん増えて、地上の楽園となっておりましたから、今後この地域をいかに我らの縄張りとして支配……へっ?」


シーム先生が突然、魔闘気の剣を作り出しオーク・エンペラーを縦に両断した。

そして続けざま、二本の魔闘気の剣を嵐のように振り回し、剣圧を飛ばすと一瞬でその場にいたオークたちを一人残らず屠ってしまった。


「話が長い。聞かれてもおらんことをぺらぺらと語るでないわ。さてさて、この場を離れているオークもおらんようだし、このオーク集落は全滅とみて善いな。これで依頼達成じゃな」


シーム先生は、女たちを匿っている横穴の方を振り返った。



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