第243話 お主を破門する

「オヤジ、コイツガ、ツカマエタガキダブヒ」


「やめろっ、離せ……この豚野郎!」


遅れてやって来たオーク・ジェネラルがクー・リー・リンの背中の服を掴み、自慢げな表情で宙吊りにして見せた。


「おお、自慢の息子ギョプルよ。でかしたぞ」


オーク・エンペラーがクー・リー・リンの身柄を受け取り、満足げな笑みを浮かべた。


クー・リー・リンはジタバタ足掻き何とか逃げようとしたが、「静かにしろ。生きたまま食い殺されたいのか」とすごまれ、すぐに大人しくなった。


こいつ、本当に捕まってたのか。

囚われている女性たちの方に意識がいっていたので、同行していたことをすっかり忘れていた。


正直なところ、このクー・リー・リンを助けなければならない義理は無い。

友達というわけではないし、人質としての価値は無いと思う。

せいぜい知り合いシーム先生のの、そのまた知り合いぐらいの間柄だ。

けっこう嫌な性格してるし、すぐ張り合って突っかかって来るしで印象は良くない。


「さあ、武器を置き、両手を挙げて膝を地面につけろ。こいつが死んでもいいのか」


オーク・エンペラーはクー・リー・リンを胸の前で抱きかかえるとその胴体を逞しい右腕で締め付けて見せた。


「たす……けて、息が……」


クー・リー・リンの日焼けで黒光りした顔が歪む。


ロランは、ため息をひとつ吐き、小剣を目の前の地面に放ると、両手を挙げ、膝をついた。


まあ、親しい人じゃなくても見殺しにしたらあとあと夢見が悪いだろうし、とりあえず従ったふりして少し様子を見よう。

こんなデカい図体してたら、そんなに速く動けないだろうし、スキル≪カク・ヨム≫だってある。

まあ何とかなるだろう。


「ぐふふ、利口な小僧だ。お前は苦しまずに死なせてやるぞ。さあ、そっちの男も腰の武器を地面に捨て、両手を挙げるんだ。早くしろ!この珍妙なガキが死ぬぞ。言う通りにすれば、このガキだけなら殺さずにペットとして生かしてやってもいい。こんな珍奇な見た目の人族はそういないからな」


「ふう、やれやれ。お主に従ったら本当にその子は助けてくれるんじゃろうな」


「我らオークの言葉に二言はない。このガキの命と引き換えのギブ・アンド・テイクだ。さあ、武器を捨てろ!」


「可愛い弟子の命と引き換えじゃ。本来なら大人しく従うべきところなのかもしれんのう……」


「そうだ。何ならもう一人のガキもサービスで、殺さずに奴隷として飼ってやってもいいぞ」


「……だが断る。儂の弟子に敵に捕らわれ命乞いをするような軟弱者はおらん。敗れたのなら、潔く死を受け入れるべきじゃ」


「そんな、師匠ぉ。私を見捨てないでくださいよ。死にたくないよぅ」


クー・リー・リンが堪らず涙を溢れさせ、声を震わせた。


「リーよ。だから儂は弟子にせんと言ったんじゃ。武の才は凡百ぼんぴゃく、スキルもようわからん珍妙なもの。剣聖の弟子になど最初から到底無理だったんじゃ。身の丈に合わぬ望みは身を亡ぼす。今この瞬間をもって、お主を破門する。禁じていたスキル使用だろうが何だろうが好きにするがよい」


「し、師匠。今、何ておっしゃったのですか?」


「もう弟子でも何でもない。好きにせよと言ったのだ」


「ぐあっはっは、さすがは下等な人族。わが身の命欲しさに弟子の命を見限りおったわ。高潔な我らオークとは違う。醜い、醜いのう」


オーク・エンペラーは身体を揺すり、愉快でたまらぬと言った様子で大笑いした。


「……わかりました。師匠の真意。私は誇り高きシーム門下です。もう命乞いなど申しません。た、≪大・明・拳たい・めい・けん≫! じゅ……十倍だあー」


クー・リー・リンの絶叫が辺りに響き、前に≪大・明・拳たい・めい・けん≫を見た時とは比較にならないほどの光量と熱が発せられた。


このスキルって、出力は調整できたんだ……。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る