第241話 オークどもは根絶やしじゃ
周囲を見回すともうすでに生きているオークの姿は無かった。
横たわるオークたちの死体から流れ出た赤黒い血液が大地を染め、こぼれ落ちた
鎖につながれた女たちは何が起こったのかわからない様子で表情を強張らせていたが、ロランの「ゾール村の村長に頼まれて、化け物を退治しに来ました」と声をかけるとようやく安堵の表情を浮かべた。
女たちはゾール村とは別の村から拉致あるいは貢物として引き渡されて来たらしく、年齢も十代から四十代後半までとバラバラだった。
シーム先生は逃げたオークを追って行ったようだ。
本当に一匹も残さず始末する気らしい。
「お姉さん、大丈夫ですか? 名前は? 僕の言っていることがわかりますか」
ロランは、先ほどまで凌辱の限りを尽くされていた若い女に歩み寄り声をかけた。
「私は……、サビーナ。ダンマルタン子爵麾下……赤狐騎士団の騎士……でした」
若い女性はしばらくうつむいたまま黙っていたが、虚ろな表情のまま、うわ言の様にぽつりぽつりとそう答えた。
「ふむ、村長が言っていたダンマルタンが寄こした騎士たちの生き残りか」
シーム先生が戻ってきた。
どうやら、逃げ去ったオークの始末が付いたらしい。
サビーナはシーム先生の姿に気が付くと怯えた様子で後ずさりしようとしたが、彼女の両足には枷が付いており、それぞれ鉄の鎖で繋がっていたため、バランスを崩し、尻餅をついてしまった。
全身は震え、顔面は蒼白だった。
「ふむ、どうやら嫌われてしまったようじゃのう」
無理もない。
捕まってから助け出されるまでどれだけの酷いことをされたかはわからないが、騎士であったという彼女が茫然自失になるほどの暴虐。
オークではないとはいえ、しばらくは男の顔など見たくないのであろう。
シーム先生は、大オークたちの所持品を物色し、いくつかの鍵を見つけると女たちやサビーナの拘束を解いてやった。
ここでふと疑問が湧いてきた。
この集落のような物を見ると随分と原始的であり、鉄の鎖や鍵付きの枷などどう考えても作れそうにない。
近隣の村や町から略奪してきたのだろうか。
「た、旅の剣士様。その……、差し出がましいようですが、この場所からはやく去った方がいいのではないでしょうか」
捕まってた女たちの中で最年長と思われる中年太りしただらしない体形の女性が恐る恐る声をかけてきた。
「ふむ、豊満美人のお嬢さん。どういうことかな」
「実はこの場所からさらに上に登った場所に、崖崩れで現れた遺跡の入り口のようなものがございます。私たちが連れてこられた当初はその場所にいたのですが、ここにいた化け物たちよりもひと際大きく、恐ろしい怪物がいました。その怪物は、この豚の顔をした化け物たちの親玉のような存在であるようでした。その怪物にこの状況を知られてはどんな恐ろしい目に合うか……」
さすがに年の功なのか。
この女性はあまり精神的な動揺が少ないようだ。
話す言葉に力が残っている。
「なるほどな。しかし、少し遅かったようじゃ。何者かがこちらに向かって降りてきておる。そして、麓の方からも小人数だが一団が大慌てで登ってきておるようだ。挟み撃ちに遭うぞ」
シーム先生の言葉に女たちから弱々しい悲鳴が漏れる。
「シーム先生、どうしますか?」
「どうするもこうするも無い。方針は最初言った通り、オークどもは根絶やしじゃ」
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