第234話 馬車の牽き手
馬の体重がどのくらいか、ダビ〇タなどの育成ゲームをやったことがある人ならばおおよその検討はつくだろう。
前世の世界の競走馬で500kg前後くらいなので、この
高橋文明時代に、ファンタジー小説を執筆していて調べたことがあったのだが、悪路の場合、車輪などの形状にもよるが馬は自分の体重と同じくらいまでの重さの車輛を余裕をもって引くことができると何かに書いてあった気がした。
うろ覚えなので自信はないが、この二頭立ての馬車の場合、積載量は少なめで輓馬の能力からすれば、かなり余裕を持った設計であると思われる。
それでも体感で軽自動車一台分くらいの重さはあるんじゃないかと考えながら、ロランは馬車を無心で引いた。
車輪のおかげで、いったん動き出してさえくれれば割と何とかなる。
「ふんぬ!はあ、はあ」
≪筋力:29≫の膂力に≪敏捷:73≫の加速。
それに根性を加えて、これでバッファ〇ーマンを超える1200万パワーだ。
「おい、ロラン。次の目的地ゾール村に着く前に日が暮れてしまうぞ」
少し先を鞍無しの輓馬に乗ったシーム先生が笑みを浮かべながら煽ってくる。
くそっ、修行というより完全に児童虐待である。
肉体は悲鳴を上げているが、なまじ体力が91もあるもんだから、少し休むと疲労が回復してしまい、それをシーム先生に見透かされてしまっている。
荷台ですでにグロッキーになって寝込んでしまっているクー・リー・リンのようにあきらめるという選択肢が無いので、このまま次の目的地まで
ゾール村が見えてきた辺りでシーム先生が馬車の牽き手を代わってくれたが、それは優しさからではなかった。
人目を気にしてのことである。
子供が馬車を牽くという異常な光景で人々を驚かせまいという配慮もあるのだが、何より子供を酷使しているという
ええ恰好しいのシーム先生らしい行動だ。
ゾール村は、五十戸ばかりの農村であった。
規模はロランが生まれ育ったウソン村とほぼ同規模であったが、木の防御柵と深く掘った空堀に囲まれており、村の入り口には武装した見張りがいた。
やはり魔物が頻繁に出るようになった影響だろう。
見張りの男もひどく疑り深い眼差しでロランたちをジロジロと見ている。
何をしに来たと声をかけてきた見張りにシーム先生は旅の途中であることを説明し、一夜限りの滞在を求めていた。
入村料のような物は無いのであろうが、紐で縛った馬肉の塊をいくつか強引に持たせてやっていた。
ここでふと不思議なことに気が付いた。
カルカッソンを出てから二日。
このゾール村にたどり着くまで一匹たりとも魔物と出会わなかったのだ。
前に災害復旧支援でウェズレー村を訪れた時は行き帰りで何度か魔物の襲撃に遭い、緑狸騎士団の騎士たちが対応に追われていたものだが、ひょっとして世界各地に散って行ったりして、数が減ったのだろうか。
「シーム先生、 この村に着くまで魔物に出遭わなかったけど、運が良かっただけかな?」
率直な疑問を口にしたロランに、シーム先生は意外そうな顔をした。
「何じゃおぬし、あれだけ魔闘気と聖光気で周囲を威嚇しまくっておいて、気が付いておらんかったのか。上位の魔族であればいざ知らず、凡百の魔物など震えあがって、近寄って来られぬわ。しかし、これから先、今のままでは目立って仕方ないのう。少し早いが気の制御の修行も同時に進めるか」
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