第218話 身に余る巨大な力

身に余る巨大な力は周囲を巻き込んで自らをも亡ぼす。


それは、愚かな独裁者が所有する核兵器のスイッチにも似て、それがもたらすであろう結果を見誤れば、大惨事を引き起こす。


今のロランにとって、この魔闘気という力はそういう存在であった。


さらに悪いことに、ロランにはまあどうにかなるだろうというぐらいの考えしかなかったため、この魔闘気の塊がどの程度の威力と性質を持っているのかということに考えが及んでいなかったのだ。


ロランのイメージでは、某ロボットアニメーションの「連邦の白い悪魔」が最終回にやったラストシューティングのような感じだったのだが、結果はまるで違った。


「うわっ」


ロランの右手の掌から放たれた魔闘気の塊は思ったよりも反動が強く、ロラン自身がそれに備えていなかったために、驚き、そして動揺してしまったのだ。


その一瞬の心の乱れが、魔闘気の塊の状態を不安定にさせてしまった。


うごめき膨張と収縮を繰り返しながら、魔闘気の塊はほんの十数メートルほど上空に飛んで行ったがその途中で、ロケット実験の失敗時のように空中で爆散した。


爆発の衝撃はすさまじく、それを放ったロランでさえ思わず尻餅をついてしまうほどだった。

ロランの魔闘気は大小多数の塊となり、方々へと散っていく。


やばい。

どうか、人に当たって、怪我させたりしませんようにと強く心に念じたが、放たれた後の魔闘気にどの程度の影響を及ぼせたのかはわからなかった。


アライ先生は、「南無三!」と一言呟き、騎士たちのもとに駆け寄ると降り注ぐ魔闘気の玉が当たらぬように、刀から放つ剣圧でそれらを迎撃し始めた。


降り注いだ魔闘気塊の破片かけらは大地を穿うがち、立木をへし折った。


俺の体にも何個かぶつかったが、こちらは不思議と無事だった。


比較的大き目な魔闘気の塊が騎士学校敷地内の中央庭園の方に飛んでいき、何か固いものが粉々になるような破壊音がした。


あの辺りには確か完成したばかりの真新しいバルテレミー校長の石像があったはずだが……、まあそれは良いとして、近くに人はいなかっただろうか。


連続行方不明事件や怪物の目撃情報などもあって、この時間帯は人の往来はほぼ無いはずだが、怪我人など出ていないだろうか。

死者なんか出た場合にはもう、どう償ったらいいか、わからなくなるレベルである。

血の気がさっと引く心地がして、ロランは思わず口を押えた。


大量の魔闘気を一気に放出したせいだろうか、軽い疲労感のようなものもあった。


祈るような気持ちで、周囲の状況を確かめてみると、黒豚騎士団こくとんきしだんの騎士たちは無事だったようだ。

見たところ、あの魔闘気の玉によって、負傷者が出た様子は無い。

アライ先生には本当に感謝である。


あの範囲、あの数の魔闘気の玉を全て撃ち落とすのは並の剣速では不可能だと思うが流石さすが、剣術指南役だと素直に思った。


そして、エマニュエルたちの方に視線を移動させると、思わず言葉を失ってしまった。


堕人間だにんげんジャンの首が無い。

魔獣人まじゅうじんウゴールは、エマニュエルを庇ったのかこちらに背を向け、両手を大きく広げたまま仁王立ちし、絶命していた。

その巨体のあちこちには大小複数の穴が開いており、黒ずんだ緑色の液体が流れ出ていた。


魔族とはいえ、元は人間だ。

将来的には、スキル≪カク・ヨム≫で元に戻せる可能性もあったのに、また俺は殺めてしまった。

しかも、今回も実験気分で行った軽率な行動が原因で。


どうして俺は何度も同じような過ちを繰り返してしまうのか。


頭の中がぐらぐらして、吐き気がした。


そうだ、エマニュエルは!

エマニュエルはどうなった。


ロランが恐る恐る移動してみると、その魔獣人まじゅうじんウゴールの影には、左腕を失い、こちらを怯えたような目で見つめる異形いぎょうのエマニュエルがいた。

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