第110話 駄目だこいつ・・・
日暮れが近いということで、巨大マッドベアとの遭遇地点から少し行った先の水場で野営をすることになった。
街道には一定距離ごとにこうした水場が設けられており、街道を旅する人々の休息地となっている。
魔物の大量発生の直後ということもあり、水場を利用する者は他になく、貸切状態であったが、魔物との戦闘後ということもあり、騎士たちの顔には緊張感が漂っていた。
恐慌状態に陥り、逃げてしまった馬の半数近くは捕まえたり、自ら戻って来てくれたりしたが、残りの馬については諦めるしかなく、騎馬を失った騎士は徒歩での移動を余儀なくされることになった。
「つまり、その……シーム様がその子をお育てになるというのですか」
ジョルジョーネは配られた温かい湯で満たされたカップで掌を温めながらシームに尋ねた。
秋も深まり、夜になるとかなり気温が下がるので、食事を終えたロランたちは焚き火を囲み、暖を取っていた。
「そうじゃ。もう名前も決めておる。この子はベアトリス。どうじゃ良い名じゃろう」
シーム先生は巨大マッドベアの中から発見された女の子を膝の上に抱き、頭を撫でながら言った。
女の子は、発見後すぐに目を覚ましたが、ロランたちが話す言葉がわからないのか、色々と質問をしてみたが、不思議そうな顔をした後、にこにこと笑うばかりであった。
「ベアトリス。良い名だ。シーム様、一体どういう由来でつけられたのですか」
三十名の騎士たちを束ねる隊長格の騎士が話に加わる。
この男は名をワーゴンといい、騎士爵なのだという。
領地を持たぬ貴族であるジョルジョーネとは友人関係にあるらしく、今回の任務を聞き、自ら護衛の任を申し出たのだという。
「ふふっ、知りたいか」
「ええ、是非。なんというか高貴な響きの中にも、強さと美しさを感じる」
「そうじゃろう。そうじゃろう。よし、しかと聞け。
散々引っ張っておいて、ダジャレかよ。
場の空気が凍り付く。
微妙な表情の大人たちの顔を見て、ベアトリスと名付けられた女の子は無邪気な笑い声をあげた。
「おっほん。しかし、シーム様。見たところこの子は我らの言葉がわからぬ様子。これでは育てると言っても相当難儀いたしましょう。子育ての経験は?」
騎士爵ワーゴンが咳ばらいをひとつして話題を変える。
「経験はない。子作りの経験ならあるがのう。おそらく探せば世界中に十人や二十人は儂の血を引く者がおるかもしれんが、剣一筋に生きてきたので、女子供は不要と切り捨てて生きてきた。だが、この歳になると妙に寂しくてな。それに我がリヒテナウワー家も割と由緒ある家柄で、儂の代で途絶えさせてしまうのも少し勿体なく感じてきておる。この子が大人になった暁には継がせても良いかなと……」
こんな自分勝手で無責任な人間に子育てなどできるのだろうか。
この場にいる全員が思ったのかもしれない。
場に再び沈黙が訪れる。
「おお、そうじゃ。この子は儂らの言葉は分からんようだが、すごく頭がいいんじゃ。もうすでに、『ちん〇』と『うんこ』と『おしっこ』、あとは『ごはん』をこの短時間で覚えたぞ。どうじゃ、すごいだろう」
シーム先生は沈黙に耐えかねたのか、さらに墓穴を掘った。
さらに場の空気が凍り付く。
駄目だこいつ…早くなんとかしないと!
「ち〇こ、ちん〇!」
ベアトリスが興奮して、連呼し始めた。
子供ってなぜか、こういう下品な言葉に食いつくよね。
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